偶然の連続から、会社やそして社会の変革へ繋がる出来事が起こる。
Gaiaxには、トップダウンで文化が変わるというよりも、社員が上げた声を無碍にしない文化があり、社員一人一人がムーブメントメーカーとなり、会社の制度や文化を形作っています。ダイバーシティの課題のひとつである「ジェンダーギャップ」もそのひとつ。
「男性と女性の生き方・働き方」をどう考え、どう変えていくか?
シリーズで、その変革の様子を追っていく「ジェンダーダイバーシティ」シリーズ、ご覧ください!
インタビュー動画はこちら(1:23:10〜)
荒井(インタビュアー):現時点でガイアックスの女性役員はゼロ。女性役員を登用する際、選出か挙手性かわからないけれど、ガイアックスの女性から手が上がるイメージがないのも課題だと思っています。ガイアックスが、そこからもし変わっていくとしたら何から始めるべきでしょうか?
杉之原:その点は、サイボウズ 社から出ている出口治明さんの記事が大好きで、そこは手を挙げることではなく「辞令」。抜擢が重要で、対話ではなくドラスティックに変える、ということが重要だと思う。
その記事の中にあった出口治明さんの言葉には、こうありました。
「能力のある女性がいない」のは女性の責任ではなく、能力のある女性が普通に育たない社会の責任なんですよ。だから、先に社会の仕組みを変えるんです。これが、クオータ制の意義なんです。
引用記事:cybozu.子育てはキャリアの中断ではなく、キャリアアップだ──ライフネット生命 出口治明さんの女性活躍論
現代の「知の巨人」出口治明さんと、これほどまでに女性役員の登用に前向きで社外でも活動を実施されている杉之原明子さん。
お二人に共通する「ジェンダーギャップを埋める施策」についての考えは、この一点。
クオーター制
政治、経済、教育などの場面で男女平等を実現するため、性別によって一定の人数を割り当てる制度。ノルウェーが発祥。クオーターとは「定量」(quota)の意味で、「1/4」(quarter)の意味ではない。女性優位をうたうものではなく男女それぞれの比率を正すことが目的。世界では女性国会議員の比率が30%を超えている国は40ヵ国以上。そのほとんどの国で、男女の比率を法律で定まる「クオーター制」を導入している。クオーター制度を導入している国は100カ国以上あり、世界ではもはや常識となっている。
(引用:出口治明.『日本の未来を考えよう』.クロスメディア・パブリッシング,2015,369p)
「クオーター制」に関する、出口治明さんのその他の記事はこちら
出口治明氏「経営者のかじ取り次第で世界は変わる」
クオータ制で女性管理職を ロールモデル作る最良策
出口治明 男性がげたを履く社会にクオータ制導入を
このインタビューに同席していた私は、出口治明さんが書かれた「貞観政要」を愛読していて、他にも何冊か本を購入し拝読していた経緯があり、杉之原さんと出口さんのお考えについて、少しお話をしていました。
もし、このお二人が、対談されたらどんなに素晴らしいだろうなと思っていたけれど、出口さんは現在別府でAPUの学長をされていらっしゃる。
そもそも、どこにいるのかに関わらず簡単にお会いできる人ではないだろうなぁ…
そんな風に思っていました。
そして、その数ヶ月後…
大分県別府に、杉之原さんと共に舞い降りました。
そう、目的は出口治明さんに謁見するため。
杉之原さんが、出口さんとアポを取られ、会いにいくことが現実に。
そして、その場にお誘いいただいて、私もお伺いすることになりました!
経緯についての詳細は、こちらからご覧いただけます
経営層のジェンダーギャップをライフテーマにしたら、APU学長出口さんに会えた話
ジェンダーギャップの処方箋
ここからは、学長室で出口治明さんにお伺いした内容の一部をご紹介いたします。
訪問の目的はこの二つに対してアドバイスをいただくこと。
この二つをベースにご質問をさせていただきました。
- 2030年までに女性役員30%
- ITベンチャー/その経営層を巻き込みたい
出口 治明
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2012年、上場。社長、会長を10年務めた後、2018年よりAPU学長に就任。訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊超。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。著書多数。「哲学と宗教全史」(ダイヤモンド社)は、ビジネス書大賞2020 特別賞を受賞。
ー出口さんがジェンダーギャップを埋めるために、大事だと思っていることは何ですか?
出口:まず、周囲から「アンコンシャス・バイアス」を消すことが大事ですね。
そして、訳のわからないことを言うおじさんには、この本を読ませることが良いと思います。
(手に取り持ってきて下さった本) 『炎上CMでよみとくジェンダー論 (光文社新書)』
相手のアンコンシャス・バイアスをボコボコにすることが大事です。
力のある人は、馬鹿ではないので、アンコンシャス・バイアスが解かれると気がつくんですよ。
だけれど、その時に大事なのは、1on1や、女性が少ない状態では挑まないということです。その状態では女性が少数派となってしまい「過激な女性」といった印象になってしまいます。だから、女性で団結すること。団結は、弱者の力ですよ。
他にも、ジェンダーダイバーシティについて問題意識を持っていて、良い方向に進めたいと思っているのであれば、知見のあるトップの声を拾ってメディアで発信していくことが大切です。
ージェンダーダイバーシティを進める上で会ったら良い人はいますか?
出口:本を読んでみて「いいな」と思った人に会いにいくのがいいのではないかと思います。
その中で、誰かという話になると、上野千鶴子先生は良いのではないかと思いますね。
ー「女性活躍」の政策提言についてお考えはありますか?
出口:そんなに真面目に考えて発信している訳ではないのですよ。
アウトプットの場があるから発信しているだけで、僕は怠け者なんです。
自分の考えについては、最近「女子供」のいない国という特集で話をしました。
こちらを見ていただくと、より考えがわかるかと思います。
「『女子供』のいない国」内の 出口治明×村木厚子 「女性がつくった国・日本」をガラパゴス化から救うショック療法の前半部分
※こちらの記事では、「女性に対するアンコンシャス・バイアス」の詳細も紹介されています
出口:一方で、「ジェンダーダイバーシティ」の問題は女性自身の選択の結果でもあるとも思っています。
例えば、テレワーク時代に、女性が男性に黙ってご飯を作る必要はないんですよ。
「風呂、メシ。」と言う男性に対して、違和感があったら、メシを出さなければいい。放っておけばいいんです。
こちらが嫌というのにも気がつかなかったら、ブチのめしたらいいんですよ。オセロをひっくり返すには、実践あるのみです。
30分という時間の中で、この他にも有益なアドバイスを賜りました。
出口さんとの対談の後、「別府はこれからどこにいくの?」と我々二人分の別府の観光マップを持ってきてくださり、オススメのスポットとオススメのルートをマーキング、内容をご説明下さり、私たちの別府の旅路まで気をかけて下さいました。
「僕は、明日も仕事で、今日この後用事があって食事はできないのだけど、ちょうど別府を明日まわる人たちがいるから、その人たちに連絡をとってみましょう。いい人ですから、なんでもわがままをいってみてください。大分を楽しんで帰ってね。」と、早速Facebookでお知り合いの方をつないでくださり、明日の観光の手配まで。
そして翌日の土曜日、出口さんの心配りがなければまわる事ができないコースを巡る事に。
新しい方たちと出会い、また新しい話をお伺いして、その車中では、出口さんが「仕事があって」と話されていたラジオの生放送から出口さんの声が流れている。
初対面なのにも関わらず、人と人をつなげ、相手の人生を豊かになるようにと、旅の手配という形で、心配りをしてくださった出口さん。
現代の「知の巨人」は、知識だけでなく、心持ちも大きな方だな、と思わされた旅になりました。
旅の終わりに思った事
この旅は、出口さんにお会いしてお話を伺うというだけでなく、様々な意味で、私に予想しない形で更なる新しい「経験」をもたらしてくれました。
出口さんが代表理事を務める「旅と学びの協議会」は、まさにこういったことを推進しようとしている団体なのかもしれません。
人間が賢くなる手段は「メシ・風呂・寝る」から「人・本・旅」が重要とおっしゃる出口さん。
「『女性活躍』がなぜ必要なのか?」そして、その点に精力的にアプローチされている理由は、本当の意味での日本の生産性向上/効率化に必須な事だからなのだな、と出口さんの発言から考えさせられています。
「女性活躍」=「社会の生産性向上/経済効果向上」の考え方は、元ゴールドマン・サックス証券 副会長であるキャシー松井さんの「ウーマノミクス」の概念とも重なり合う部分です。
内閣府の資料の中でも、キャシー松井さんが提示した資料があり「女性の就業率が男性並みに上昇したと仮定した場合のGDPの推定増加率」は13%にも上ります。
長時間労働をすると、誰しも能率が下がり生産性が低下してしまう。
出口さんは、そこに対し、労働時間は2時間×3、4コマが限界ではないか?とおっしゃいます。
休憩をし、人に会う。本を読む。そして、「旅」=「現場」。現場に行く。
「人・本・旅」から学ぶべきポイントは知識ではなく、考え方やパターン。いろいろな人と出会い世界を旅して、いろいろな文化や伝統を目の当たりにして考え方をまねることで、はじめてものになると仰る出口さん。
(引用:NIKKEI STYLE.出口治明氏「メシ・風呂・寝る」から「人・本・旅」へ)
「旅と学びの協議会」は、旅を通じた学びと幸せが人間の成長に及ぼす効果を科学的に立証することに産学連携で挑戦するという協議会だそうで、ガイアックスも「旅と学びの協議会」に協賛していることを、この旅の数日前に知りました。
ガイアックスでのジェンダーギャップへの取り組み
終わりに、ガイアックスでのジェンダーギャップへの取り組みをご紹介いたします。
現在ガイアックスの女性の役員比率は0%。
それに対し、経営会議に参加する女性メンバーが、2019年の0%に対し、2020年では全体の40%に変化しました。
自分の担当している事業の責任者として働いている女性の比率は決して低いものではありません。
現状、ガイアックスでの女性管理職の比率は、42.1%です。
「取締役会は、既に決まっている部分に合意する場所だから、経営会議に参加する女性の方が重要であって、取締役に女性がいる必要があるのだろうか」という議論や「やはりガイアックスには女性役員が必要では?」という議論が内部であります。
そして、杉之原さんほどパワフルに「経営会議」や「取締役会」という場で、ジェンダーギャッププロジェクトの話を進め、かじ取りが出来る女性も現状不在の状態です。
この理由は、費やす時間と気力に対して、決して「仕事」として成果を評価されるものでもないこと、「事業部長」という役職があれば自分が描くありたい姿が実現できるため、ガイアックスでライフスタイルを変え、男性性が強い男性ばかりの場所に自ら身を置いて「役員になりたい」と思っている女性もいないからです。
ガイアックスでは、「この人を応援したい」という人がいて、その人が女性役員になりたいという意欲があれば、それを引き上げる男性もいる、そんな文化があります。
進め方に対して課題はありますが、この議題は引き続き「未来会議」の様な発言に対して責任を伴う必要がない会議体などで定期的に意見を交わす場を設け、2021年から議論していく方針となっています。
ジェンダーギャップの実情
ガイアックス女性メンバーが「ジェンダーギャップ」のプロジェクトを立ち上げようと呼びかけ、adishの杉之原さんと意見をシェアする場が設けられたきっかけにもなった、杉之原さんの投資先経営者インタビュー。
そこで、杉之原さんから教えてもらったジェンダーギャップの実情を少しご紹介します。
法律の改正
2022年4月1日より、労働者数101人以上300人以下の事業主も一般事業行動計画策定・届出が女性活躍推進法の改正により義務化される。現状、比率が低いからといって罰則はないものの、その中の多様な項目の中にも「女性の役員比率や管理職比率の提示」が求められる。
日本のジェンダーギャップの取り組み方針
・2030年までに女性役員を30%へ
社会のあらゆる分野において、2030年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度とするという日本の目標
ジェンダーギャップの実情
・adishで公開している数字はこちらです。
男性役員が10名/女性役員が1名(9%)、女性管理職が14%の比率。※2020年12月末現在の数字
・ガイアックスで公開している数字はこちらです。
男性役員が10名/女性役員が0名(0%)、女性管理職が41%の比率。※2020年12月末現在の数字
ジェンダーギャップの取り組み方針案
STEP2(2021年〜)
段階
・女性にもスポンサーシップ(引き上げる)が発揮されている
・「無意識の偏見」に取り組む
指標
・「引き継ぐとしたらリスト」における比率
取り組み方針
・取締役会似て決議、人材未来会議にて進捗させる
STEP3(2027年〜)
段階
・女性管理職の候補者がスタンバイしている状態を目指す
指標
・管理職に占める女性の割合
取り組み方針
・職能別や国籍等の観点で取り組んでいく
杉之原さんが掲げた取り組み方針を拝聴した後、2020年にゴールドマン・サックスの副会長を退任されたキャシー松井さんの書籍を拝読しました。
ウーマノミクス提唱者でもあるキャシー松井氏が考える育成の秘策の内容は、杉之原さんが思い描く取り組み方針が全て網羅されており、思わず拝読後に書籍を杉之原さんへお伝えしたほどでした。
書籍の中で、この記事を読まれている方の参考になりそうな部分を一部ご紹介させていただきます。
ゴールドマンサックスでの人材リスト
新たに人材を募集しようとする際、もしくは新しいポストに人を登用しようとする際に、その候補者の中に男性だけしかいない場合は、候補者リストを見直す様に指示します。女性を候補として入れることを義務付けることで多様性を確保する様に、最初の登用の段階から公平性を期すという努力をしています。
ゴールドマンサックスが多様性を高める理由
- 優秀な能力の高い人材の確保
- 全ての社員にとって働きやすい職場作りが業績の向上につながる
- 多様性によってイノベーションが生み出される
グローバル企業300社を対象に米コンサルティング会社マッキンゼーが実施した2017年の調査によると、女性役員比率が高い企業は女性役員がいない企業に比べて財務指標が優れているという結果が出ているダイバーシティは「コスト」ではなく「投資」
マーケットを見渡し、今後、必要となる人材、アイディア、イノベーションの可能性に「投資する」。それは企業のトップとして、避けられない挑戦であると私は考えます。
優秀な女性社員を集めるためには、当の女性たちにどうあればいいのかを聞いてみる。これは基本の基本ではありますが、意外に実践していない企業もある様ですからおすすめしておきます。(引用:キャシー松井.『ゴールドマン・サックス流 女性社員の育て方、教えます〜励まし方、評価方法、伝え方 10ヶ条〜』.中公新書ラクレ,2020,24p,28p-35p)
最後に
例えば、10人の女性がいて、美容やオシャレなカフェについて話をしていたとします。
そこで、女性陣は大盛り上がり。
だけれど、そこに1人の男性がいて、「化粧品にそんなにお金をかけるなんて、お金の無駄だよ」と言ったとしても、(それが本当であっても)場はしらけてしまいますよね。「水を差す」という言葉がぴったりのシチュエーションです。
女性が沢山いる場で交わされる女性性の強い会話。その中で、男性性の強い男性1人の主張に、10人の女性がうなずくことは難しいでしょう。
それを、逆にしたとしたらどうでしょう?
いつもジェンダーダイバーシティについて考えると思い出す映画があります。
マイケル・ムーア監督の「世界侵略のススメ」です。
女性が世界一活躍しているといわれる国 アイスランドの女性経営者や活躍する女性たちにインタビューをして、ドキュメンタリーにしているシーンがありました。
その映画の中で、アイスランドにある商工会議所の前所長 H.トーマスドッテイル氏は、こんな風に語っていました。
「調査では“役員会に女性が3人いたら文化が変わる” 1人や2人じゃダメ。1人はお飾り、2人は少数派、3人でグループの力学が変わる。対話の様子も議題の内容も貸借対照表より違いが明白。女性を増やせば出資者にもチェックが入る。“道徳倫理の羅針盤”よ。すごく有益なことだわ。それなしで長期間生き残るのは難しいと思う。」
マイケル・ムーア監督も最後に「女性が本当に対等な力を持っていると、国民が幸せに見える。」と言っていたのを思い出します。
旅をして、人に出会い、映画や本を見て学んだ「ジェンダーダイバーシティ」という課題は、「ガイアックス」という会社よりも、今を生きる私たち人間の課題であり、「緊急度は低いけれど、重要なこと」なのだと思わされました。
そして、ガイアックスという会社は、「緊急度が低い重要なことを放置する会社」ではないことでしょう。
これから
「未来に対しての投資」とキャシー松井さんが仰る、ダイバーシティや女性活躍への環境整備や支援の用意。
ガイアックスは、このトピックに対してどんな投資をしていて、2021年ではどんな状況に変容していくのか?
次回の「ジェンダーダイバーシティシリーズ」では、ガイアックス社長の上田さん、アディッシュ社長の江戸さんが、「女性活躍」についてどのような考えを持っているのかをお伝えします。
お楽しみに!