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スタートアップスタジオとは?新しい起業スタイルを可能にするその仕組を解説

最終更新: 2024年5月14日

最近ビジネス界隈で少しずつ耳にする組織、「スタートアップスタジオ」。新しい事業を連続的に立ち上げる為の組織であることは一般的に知られていますが、具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか?

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今回はスタートアップスタジオについて理解を深めるべく、スタートアップスタジオの全てを記している書籍、”STARTUP STUDIO”を参考にしながらわかりやすく解説していきます。
この”STARTUP STUDIO”の著者であるアッティラ・シゲティは「ビッグ・スタートアップスタジオ・スタディ(Big Startup Studio Study)」というプロジェクトの発起人でもあり、全世界の50以上のスタートアップスタジオを調査しているスタートアップスタジオの専門家です。
今回は書籍”STARTUP STUDIO”を参考にしながら以下についてわかりやすく説明します。

  • スタートアップスタジオとは?起業家に対しての役割
  • スタートアップスタジオの内部の仕組みと出資の仕組み
  • スタートアップスタジオにおける事業の成長フェーズ
  • スタートアップスタジオが起業家に求める事
  • スタートアップスタジオが今後日本社会にもたらす影響

それでは早速スタートアップスタジオの定義とその役割について説明します。

スタートアップスタジオとハリウッドは似ている

まずスタートアップスタジオについて説明していく前に大枠のモデルイメージを持ってもらう必要があります。

スタートアップスタジオのモデルイメージは、
スタートアップスタジオ=ハリウッドの会社・事業版
と認識してください。

ハリウッドのスタジオには監督・脚本家・演出家・カメラマン・照明・編集など、映画製作に必要なリソースが揃っています。

新たな映画製作案が出ると、即座に適切な人材を割り当てて最も効率の良い方法で制作に入ります。

さらにハリウッド映画スタジオの魅力はナレッジを貯蓄していくことにあります。年間200本以上もの作品を世に出しているので、売れる作品の傾向を社内で蓄えることができます。

内製のリソースを上手く利用し、ナレッジを貯めることで成功確率を上げていくのがハリウッド映画スタジオの仕組みです。

スタートアップスタジオはこのモデルに非常によく似ています。スタジオ内には経営のプロフェッショナル、プロダクト開発を担うエンジニア、PRや売り方の専門家マーケターなど、新規事業を立ち上げる際のノウハウが詰まっています。そのノウハウを共有されて実際に事業を走らせるのが外部からの起業家です。スタジオには事業立ち上げ経験者が揃っているので、事業に合った適切な問題解決方法やスケール方法を実践し、成功確率を上げていくことができます。

ハリウッドとスタートアップスタジオに共通する重要なキーワードは「分業と専門性」です。目的への達成までの手段は固執せずに最短距離で形にしていきます。
後ほど詳しく解説していきますので、「スタートアップスタジオとハリウッドは分業スタイル」という意識をもって記事を読み進めてください。

スタートアップスタジオの定義

それではスタートアップスタジオとは何か?の疑問について説明します。参考書籍の著者アッティラ・シゲティはスタートアップスタジオを以下の通り定義付けしています。

定義1 スタートアップスタジオとは、同時多発的に複数の企業を立ち上げる組織である
定義2 スタートアップスタジオとは、起業家やイノベーターが新しいコンセプトを次々に打ち出す上で理想的な場を提供する組織である。

引用:アッティラ・シゲティ. STARTUP STUDIO (Japanese Edition) (Kindle Locations 2949-2950). Kindle Edition.

【定義1】同時多発的に複数の企業を立ち上げる組織

スタートアップスタジオの1つ目の定義を簡単に説明すると、「一気に沢山会社を創る」ということです。なぜ会社を沢山つくることが大切かというと、それが世の中の負を解決することに繋がるからです。
会社や事業は社会のペインを解決して幸福な社会をつくれるために創出されます。しかし、新規事業の立ち上げには費用やリソースが必要です。その足りない要素を一緒に埋めていく支援役を担うのがスタートアップスタジオです。スタートアップスタジオはこの支援を効率的に行うことで同時に多くの起業家をサポートし、より多くの企業を創出することを可能にします。

【定義2】起業家やイノベーターが新しいコンセプトを打ち出す上で理想的な場所

スタートアップスタジオの定義の2つ目は1つ目の定義に通ずる箇所がありますが、簡単に説明すると、「アイデアを形にする最適な組織」ということです。
「この課題はこうやれば解決できる」「こんなサービスがあればもっと楽しい世の中をつくれる」といったアイデアは生まれても大半は挑戦することなく忘れさられていきます。スタートアップスタジオではそういった突発的なアイデアを形にするための全面的なサポートを実施しています。
言い換えると、「挑戦のハードルを下げるのがスタートアップスタジオの役目」といってもよいかもしれません。

起業のハードルを下げ、スタートアップ創出を促す、スタートアップスタジオ協会も存在します。

スタートアップスタジオの役割・起業家への働き

では実際にスタートアップスタジオが起業家に対してどのような働きを行い、役割を果たしているのかを説明します。
スタジオの働きの要素は大きく分けると以下の3点に分類することができます。

  • 人的資本
  • 経営構造
  • 資金調達

【スタジオの働き1】人的資本

スタートアップスタジオの定義でもお話した通り、スタジオの役目はビジネスノウハウを共有して創業者のアイデアを形にするサポートを行うことです。
プロダクトやサービスの制作を行うエンジニアやデザイナー、成果物を世の中にだす手法を伝授するマーケッターなど、起業家の思いや意思をより早く効果的に形にする資本を抱えているのがスタートアップスタジオです。

【スタジオの働き2】経営構造

経営構造とは、アイデアを進める、失敗に対処する、人材を管理する、別分野の事業に乗り出す(ピボット)といった、事業を成功させるための手法や決裁のことです。スタジオのメンバーには事業立ち上げ経験者が揃っているので、起業家は経営や事業スケールについてのノウハウを得ることができます。

【スタジオの働き3】資金調達

いくら良いアイデアがあって、成功確率の高いノウハウを持っていたとしても資金がないと事業を進めることはできません。資金の出所は様々です。基本的にはスタジオ自体から出資されることが多いですが、外部の個人投資家やVCから出資を受けて資金を増やす場合もあります。事業を運転するための資金調達の面でもスタジオは創業者のサポートをします。
以上3つの働きが行われることにより、起業家は自分のアイディエーションやプロダクト開発といった、本質的な業務に専念することができます。
よくVC(ベンチャーキャピタル)との違いが分からないという意見があります。参考書籍の著者であるアッティラ・シゲティは以下の用に違いを説明しています。

VC (ベンチャーキャピタル)との違い
インキュベーターやアクセラレーターは、スタートアップしたチームを指導したり、相手の株式と交換で投資したり、有償で事業に必要なインフラを提供したりすることに重きを置いています。一方、スタートアップスタジオはスタートアップそのもの、つまり商品とチームと企業をつくっています。さらに、スタートアップスタジオはほとんどの場合、支援する企業のレイターステージにも大きく関与し続けます。

引用:アッティラ・シゲティ. STARTUP STUDIO (Japanese Edition) (Kindle Locations 2949-2950). Kindle Edition.
この引用をわかりやすく説明すると、VC(ベンチャーキャピタル)は必要な物を提供する「外部支援」でスタートアップスタジオは一緒に事業をつくりあげる「内部支援」ということです。VC(ベンチャーキャピタル)はアドバイスやありえて「人の紹介」を主としていますが、スタートアップスタジオではスタジオ内のメンバーが創業者の社員として働くケースが多く見られます。「リソースを与えるだけでなく一緒に作り上げる」というイメージです。

スタートアップスタジオの比率

さて、ここまでスタートアップスタジオが起業家に対して提供するものを明確にしてきました。リソースをギブする代償として創業者は自社の株を配分する必要があります。株の仕組みを簡潔に説明します。
株は会社の価値を可視化したものです。会社の評価が上がると株価は上昇して1株に対しての価格が上がります。その株を売却することにより現金化してキャッシュを得ることができます。また、株の保有者(株主)はその会社のメンバーともカウントされ、会社の方針についての決裁権を持つことができます。単純に株の保有数がその会社の所有権に比例します。
その貴重な株を引き換えに創業者はスタートアップスタジオやVC(ベンチャーキャピタル)から支援してもらうことになります。
では実際にどれくれいの比率を配分する必要があるのでしょうか?
著者のアッティラ・シゲティが50社以上のスタートアップスタジオに調査を行った結果がこちらです。

スタジオは各スタートアップの株式比率の30〜80%、平均で50%を獲得します。

アッティラ・シゲティ. STARTUP STUDIO (Japanese Edition) (Kindle Locations 468-469).
平均50%の株を配分する必要があります。一見かなりの比率に思えますが、多くの場合、アイデアとインフラ、人材、お金を出すのはスタジオで、起業家はそうしたピースをつなぎ合わせればいい〝だけ〟です。それを考えれば、スタジオがなぜそれほどの比率を保有するのかも見えてきます。
自社株保有にこだわって自分たちのリソースだけで事業を進めるのと、株を譲渡してでもスタジオの無限の可能性を秘めたリソースを活用しながら事業展開していく2択では、どちらが成功確率が高いかは明瞭です。
もちろんこの比率はスタートアップスタジオによって様々です。
ガイアックス・スタートアップスタジオの場合は、まずはアイディエーションフェーズから20%を出資し、且つ検証フェーズでの運営資金などは負担し、その後更に10%追加、といったように資金の必要性に応じて出資を行っています。初期から株式を50%程譲渡する必要はないので、起業家は自分の都合に合わせて会社の資金と自社株をコントロールすることができます。
それでは事業の成長フェーズについて詳しく見ていきましょう。

スタートアップスタジオの成長フェーズ

それでは具体的にスタートアップスタジオで事業を創出してからグロースするまでのフェーズを解説します。今回はわかりやすいように大きく3つのフェーズに分類します。

1. アイディエーション

事業アイデアに価値があるのかを精査する「アイディエーション」では、チーム内の起業家、デザイナー、エンジニア、マーケター、プロダクトマネージャーが集まりそれぞれのアイデアを共有します。
スタジオによっては「アイディエーション・ブレックファスト」といって、朝食をとりながらアイデア共有する習慣を設けているところもあります。
問題意識を深掘り、サービスを創ろう!その感覚を高めるアイディエーション |

2. 検証

アイデアがまとまったら実際に効果測定をする仮設検証フェーズに入ります。検証手段は以下の通りです。

  • 市場調査・・・どれくらいのマーケット規模なのか、競合はどこなのか調査
  • 技術分析・・・どんな技術を使って形にするのかを考察
  • プロダクト制作・・・MVP (最低限のコストで最低限の機能のプロダクト制作) を実施してテストユーザーに体験してもらう
  • ユーザーフィードバック・・・体験談や感想を収集する

中学生でもわかる仮説検証の意味!実例をもとに優しく解説 |

3. 拡大

収集したデータを集めて適切な調整を行いながら、さらに多くのボリュームを集める施策に入ります。拡大フェーズではスタジオ内のマーケティングリソースを活用して顧客の幅を広げていきます。具体例を挙げると、

  • SEO対策 (検索エンジンからの流入)
  • 広告配信&最適化 (Google/Yahoo広告、SNS広告など)
  • ファネル分析をもとにUIやUXを変更

スタートアップスタジオのルーティン文化

このフェーズ段階を着実に進めていくには経営意識が必要不可欠になります。同時多発的にこの作業を行う為、多くのスタジオではルーティン文化を構築させてスケジュール管理や進捗状況の共有を行っています。
スタートアップスタジオの一例としてイーファウンダーズのルーティン文化をご紹介します。

  • サンデー・アジェンダ
    毎週日曜の夜に各プロジェクトのCEO (創業者)はその週の振り返りと翌週の予定をスタジオに共有します。一旦事業を客観的にみる時間をとることで、思いがけないアイデアが浮かんだり、見えていなかった問題点がみつかることがあります。
  • キックオフミーティング
    毎週月曜の朝にサンデー・アジェンダで各プロジェクトのCEOが提出した内容を元に一週間のタスクを洗い出します。このミーティングをすることで、プロジェクトがどこに向かっていて、今週は何をしなければならないかを、全員が理解していることを確認できます。また、メンバーにやる気を起こさせ、必要であれば問題に対処する絶好のタイミングにもなります。
  • 商品委員会
    金曜の午後には、プロジェクトごとに1時間の商品委員会を開きます。商品やサービスに関してその週に行ったこと(改良、モックアップ作成など)や、翌週に予定されていることを話し合います。これは商品開発に関する議論や決定の場であって、戦略的に深く考えるためのものではありません。プロジェクトのフェーズによっては、商品委員会は30分に短縮され、残りの30分はマーケティング委員会になります。
  • デモタイム
    3カ月に一度、社内のデモタイムに丸1日が当てられます。各スタートアップのCEOとCTがデモンストレーションを含めた20分の持ち時間で、スタジオとプロジェクトチームの前で自分たちの商品と今後1年間の計画をプレゼンします。デモタイムの1カ月後には、次の1カ月の達成目標を決め、それをオフィスに掲示します。到達すべき目標があると、チームは決意も集中力もいっそう強まります。

スタートアップスタジオが出資先・起業家に求めるもの

スタートアップスタジオが出資先を決める際には用意周到に準備されたプロジェクトやビジネスチャンスを決定優先事項におくのではなく、基礎を「人」に置きます。
人は大きな志を果たす時、そして力を与えられたと感じた時、最高の能力を発揮します。
参考書籍でも以下の通り記されています。

人を中心に、人と共に、人のために、ビジネスをつくり上げるのです。このビジネス創出のアプローチでは、エフェクチュエーション理論(訳注:市場を予測・分析してから実行するのではなく、できることを実行していく過程で適合する市場を見つけていくという考え)の研究者たちが発見した通り、「手がける人材が実際に成功を想像できているか?」が大切になります。

アッティラ・シゲティ. STARTUP STUDIO (Japanese Edition) (Kindle Locations 2296-2300). Kindle Edition.
このようにスタートアップスタジオは起業家候補に事業を任せる資質があるかを見極めます。事業モデルやスタジオの方針によって様々ですが、今の時代に求められる一般的な起業家の資質をリストアップしました。
起業家に求められる事

  • テクノロジーに情熱を持っていること
  • 何でもこなせる開発者であり勉強家であること
  • プロジェクト管理や採用に精通していること
  • 高い分析力があり、データ駆動型のアプローチを取ること
  • 利害関係者すべて(チーム、顧客、マスコミ、投資家など)を導き説得する能力があること
  • 常に要求された以上の働きをし、何でも自分から進んで動こうとすること
  • 飲み込みが早く、問題を解決するのがうまく、ビジネス感覚に優れていること

もちろん最初から全てのことが出来る起業家は存在しません。スタートアップスタジオは自分の掲げる課題を明確にし、使命感をもった人材を重宝します。その使命を全うする為に自分に何が足りないのか、何を補強することでその課題は解決するのかを解像度高くアピールできる起業家であればスタートアップスタジオは積極的にサポートに動き出します。

今後のスタートアップスタジオがもたらすエコシステム

さて、スタートアップスタジオの定義、役割、そして起業家との関係性について詳しく解説しました。本記事の最初に紹介した「専門的なノウハウを共有して分業することでより多くの事業を創出する」というスタートアップスタジオの概念がより明確にみえてきたのではないでしょうか?
まだ日本国内では浸透していない組織「スタートアップスタジオ」は今後どのようなエコシステムを国内に起こし得るのでしょうか?
参考書籍の日本語版解説欄で及部氏は以下の用にコメントしています。

組織的なイノベーションを可能にするスタートアップスタジオからは、老若男女、多くの社内起業家が生まれるでしょう。そうすれば日本独自のイノベーション・エコシステムを構築することにもつながっていくのではないでしょうか。

アッティラ・シゲティ. STARTUP STUDIO (Japanese Edition) (Kindle Locations 2296-2300). Kindle Edition.
本記事でもすでに記載した通り、事業や会社が創出されるのは我々が生活する社会をより良くするためです。境遇や経歴、年齢も関係なく誰もがビジネスに興味を持ち、参入することができる文化をつくることで今後の日本社会は変わっていきます。
2020年の新型コロナウイルスによる影響で失業率は上がり、世の中に不安な空気が漂っている今、次のイノベーションを起こす芽は一人ひとりの意識の中にあります。
その芽を開く栄養素、太陽や水となるのがスタートアップスタジオの役割です。是非日本国内にスタートアップスタジオの概念が更に普及していってほしいと思っています。
次の記事では日本国内のスタートアップスタジオを比較し、それぞれの特徴や強みをご紹介します。スタートアップスタジオについて更に理解を深めたい方は是非参考にしてみてください。

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