今回インタビューしたのは株式会社 Photosynth(フォトシンス)代表取締役社長の河瀬航大(かわせ こうだい)さん。
河瀬さんは新卒でガイアックスに入社し、3年目には24歳にしてネット選挙の事業責任者として事業を牽引しました。そして仲間と開発したスマートロックシステム「Akerun(アケルン)」が注目を集めたことをきっかけに株式会社 Photosynthを創業しています。
会社を設立し、事業を大きくしてきた裏側では様々な困難もあったはず。そんな時はどのように乗り越えてきたのか、仕事でバリューを発揮し続けるために大切にしていることをお聞きしました。
河瀬 航大
株式会社Photosynth・代表取締役社長
1988年、鹿児島生まれ。2011年、筑波大学理工学群卒業後、株式会社ガイアックスに入社。ソーシャルメディアの分析・マーケティングを行う。2013年にはネット選挙の事業責任者として、多数のTV出演・講演活動を行う。「facebook 知りたいことがズバッとわかる本(翔泳社)」執筆。2014年、株式会社フォトシンスを創業、代表取締役社長に就任し、スマートロックAkerunを主軸としたIoT事業を手掛ける。経産省が所管するNEDO公認SUI第1号をはじめ、これまでに累計50億円を調達するなど、IoTベンチャーの経営を担う注目の若手起業家。Forbes主催、Forbes 30 Under 30 Asia 2017にて、アジアを代表する人材として「ConsumerTechnology」部門で選出。筑波大学非常勤講師。
生み出すために休む。戦略的撤退のススメ
戦略的に休み、動き出すエネルギーを蓄える
ー これまでに様々なハードシングス(困難)を経験されてきたと思いますが、仕事で高いパフォーマンスを発揮するため意識していることはありますか?
河瀬:キツいことを突破しようとする時は自分自身も「突破モード」に入っているので、目標が高くても痛みを感じなくなるんですよね。でも、ハイな状態になりすぎるとプチッと切れることが絶対にあるので、その時はあえて戦略的撤退をするようにしています。
若い頃の僕は、休むことで「ダラけているんじゃないのか」と自己嫌悪に陥ってしまうこともありました。それだと休んでも回復に繋がらないので、「あえて戦略的に撤退しているのだ」と自分を納得させるんです。ワクワクするまではぐっと我慢して、「何かやりたい」とウズウズしてきたらまた立ち上がる。人には休むタイミングがあると思っていて、ウズウズする感情がない時にはあえて休むことも必要だと思っています。
最前線から一歩下がり、冷静になることでアイディアも出てくる
ー 河瀬さんは止まらずに走り続けている印象があったので、意外です。戦略的撤退をしようと思えたのはいつ頃からですか?
河瀬:僕自身は走り続けている感覚はないんですよ。フォトシンスが4年目くらいのタイミングでは精神的に死にそうになっていた時期もあり、色々なことが重なって1週間程会社に行けない時もありました。その頃は全くバリューを出していませんでしたね。戦略的撤退をしようと思えるようになったのはその頃からなので、社会人7年目くらいですね。
戦略的撤退として実際にやったこととして、僕が会社のトップラインを担うセールス・マーケティングの最前線や、自分の強みである新事業から戦略的に離れる選択をした時もありました。あえて戦略的撤退をして人に任せることで部下が育つきっかけにもなりますし、僕自身も一歩引いた目線で観ることができるので、色々なアイディアも出てくるようになる。そしてウズウズしてきたらまた戻って、やりたいことをやる。セールスマーケターに戻って2年ほど経ちますが、2021年はまた一旦外れて、マーケティングも新規事業も他の人に任せようと思っています。時には最前線を人に任せて、ポジションを変えてみることも社長には絶対に必要だと思います。
心理的安全性があるから、バリューを最大限発揮できる
心が折れそうな時、信頼できる人が身近にいることが最大の逃げ道になる
ー 他にも大切にしていることはありますか?
河瀬:自分が失敗したとしても、何をしたとしても、絶対に自分の味方をしてくれる人が近くにいることは大事ですね。会社の中でも家族でも、そういう人が周りにいることが最後の逃げ道だと思います。それがないと、マズイですね。
これまでの経験ではフォトシンスの4年目が最もキツい時期でしたが、創業して3ヶ月で競合が出てきた時もかなり精神的にキツかったです。僕らが2014年9月に創業した当時はスマートロックという言葉も世の中に出始めたばかりで、本当に世界で初めてのことでメディアにも注目されました。そこから3ヶ月後の2014年12月に、競合としてソニーが出てきて…。僕達はモノづくり初心者の6名で、ソニーが出してくるとなったらフォトシンスは絶対に潰れると思いました。「こんなに応援してもらったのに、わずか3ヶ月で解散になるなんて」と。その時は「完全に終わった…」と思って気持ちが下がりましたが、一方でチームメンバーが意外と冷静だったんですよね。「全然大丈夫じゃない?」なんて言ってくれて。どんなことがあったとしても、最終的に数人は応援してくれる状態であることが一番大事だと思います。
「この人を大事にする」と決め、信頼関係を守り抜く
ー 信頼できる人を身近におく状態を保つために、大切にしていることはありますか?
河瀬:「こいつを大事にする」とまず決めます。そこの信頼関係が全てだと思っているので。自分で「この人たちと新しい景色を見るんだ」と決めて、不安な気持ちもシェアしながら、仲間だけは大切にして裏切らずにその姿勢を相手にも見せて伝えていきます。
エンジニアのトップが取締役になる時には、ものすごく長い手紙を書いたんです。「君のできていない点はここだと思う。でも、僕は君と一緒に走りたいからここを全て改善してほしい」と伝えました。彼とは中学校からの腐れ縁ですし、普通に考えたらけっこう鬱陶しいと思います(笑)。でも、その手紙を送ったことで僕の覚悟も伝わったようで、彼は3ヶ月〜半年間で取締役として目線が上がり、本当に素晴らしい動きをしてくれるようになったんです。信じることで人は変わるし、周りにいてくれる。そういう人達のことは絶対に裏切りたくないですね。
チームとして色々な時期を経験してきて、仲間が離れていくことで相当なダメージを受けた時もありました。経営者は色々なところからプレッシャーがかかりますし、心理的安全性が確保できていないと本当に孤独になってしまいます。だからこそ、心理的安全性を確保することでバリューが全然違ってくると思います。
ー フォトシンスを創業してから、様々なドラマがあったのだろうと思います。一つ一つの言葉に重さを感じました。ありがとうございました!
インタビュー:荒井智子
ライティング:黒岩麻衣