Nagatacho GRiDは新たな社会を構想する人がつながり活動するコミュニティビルです。
つながりは新しい価値を生み出し、社会を変える力を持ちます。人と人がつながり、新しい価値観や新鮮なアイデアを得るきっかけになる交差点のような場所にしたいという思いから『 GRiD(格子目、接点)』という名前をつけています。
GRiDは、地下から屋上まで8フロア全てがシェア可能!これからの暑い季節にぴったりな場所が、GRiDの屋上『Cloud 9』です。天国より気持ちいい場所を意味するCloud 9の開放的な屋上空間は、私たちと志を同じくする3組のパートナーと共に手掛けています。
GRiDの屋上空間を手掛ける想いやこだわりをGaiax Bardsの中津がインタビューさせていただきました。リレー形式でご紹介します!
今回ご登場いただくのは、Nagatacho GRiDの屋上で『PASS THE ASHIBA PROJECT』を手掛ける、WOODPROの中本さん。
中本 敬章 (なかもと ひろあき)
株式会社WOODPRO代表取締役社長。杉足場板の販売とリース(レンタル)、ネットショップ(4店舗)、実店舗(ショールーム)、カフェなどを展開する。テーマは日本の杉の魅力の発見と可能性の追求。
Nagatacho GRiDは、B1『Space0』のカウンター横の壁面、6F『Attic』と『Salon』を仕切るパーテーションや、キッズルームの壁面など、全てWOODPROさんの足場板を使用しています。また、屋上『Cloud9』では、足場板を醸成しています。
このように足場板がNagatacho GRiDで建材になるまでにはどのような過程があるのか、そしてNagatacho GRiDで育てている足場板はどのように形を変えて巡っていくのか、杉の足場板の再利用に取り組むWOODPROさんの想いをお聞きしました。
中津 足場板とはどのようなものでしょうか?
中本 足場板というのは、高速道路や橋梁など各種プラント工事で、板で工事用の床をつくり、その上で人が作業をするために使用するものです。平均して3年から5年、現場の過酷な条件の下で利用されたのち、足場板としての使命を終えます。人命をあずかる部材ゆえに、板の強度に不安を覚えたら現役引退となるのです。
近代の建設現場では、安全性や効率、機能性を考えて、スチールやアルミなど金属の足場板が主流ですが、特に西日本を中心に、杉の足場板を用いた工法が残っています。神社仏閣の現場、例えば京都の清水寺の改修でも杉の足場板を使っています。
中津 WOODPROさんが杉の足場板の再利用に力を入れるようになるにはどのような経緯があったのでしょうか?
中本 もともと私たちは『住建リース』という名前で、足場板を建設現場にレンタルする事業を親父が32年前に始めました。建設現場に足場板を貸して、返ってきたものを綺麗にしてまた次の現場へ送ることを繰り返すレンタル事業をベースに、足場板を貸す事業を専門に行なっていたのが親父の時代です。
私が会社を引き継いだ20年前の当時、親父は「もったいない、なんとかならないか。」と口ぐせのように言っていました。なぜなら、役目を終えた杉の足場板は処分されていたからです。例えば、現場に1000枚の足場板を持って行くと、950枚ほどが返却されます。残り50枚は無くなったり切り刻まれたりしているので損料を貰います。しかし、返却された950枚の足場板が全て次の現場に送り出せるわけではありません。一枚一枚検品すると、傷がついていたり、刃物で傷つけられていたり、次の現場には貸し出すことができない破損品がたくさん出てきます。足場板は、その上に人が乗って作業をするので、人命を預かる部材としての要求強度と品質があります。少しでも不安がある板は、次の現場には出しません。そうなると、もう不良材として処分するしかないのです。
しかし、建設現場で使うことはできなくとも、木としてはまだ使えるのではないか?と考えました。もともと杉の足場板は、4メートルの長さがあるので、いいとこ取りをすれば、そこそこの長さの良材が取れないこともないですが、たいそうな手間がかかります。当時はとてもやってられないと思ったものでしたが、親父の「もったいない」の言葉が引き金となり、足場リサイクルに本格的に取り組むこととなりました。使い込んだ感満載の木の良さは当時の私たちにはまだ分かりませんでしたが、材料の有効活用のため、35mmの傷だらけの杉の板の材料を27mmまで削り込み、『リサイクルウッド』と銘打って、塗装をして、プランターとして発売しました。その商品を、2000年の4月、まだ世の中がインターネットに目覚めておらず、楽天市場もメジャーではない頃に、ネットショップ『WOODPRO』を開設して売り始めました。
中本 そうこうしているうちに、使いふるした杉の足場板を削らず、そのままの雰囲気を生かした内装づくりを地元の仲間がはじめました。そこで、杉の足場板でつくった家具を販売し、杉の足場板の素材としての可能性を提案するようになりました。
それがきっかけとなり、2003年頃から口コミで杉の足場板が広がり始めました。杉の足場板を供給できるところは私たちくらいしかいなかったので、私たちのミッションとして、使い古した、捨てざるを得ないものを、もう一回活かすことを事業にしていくと決めました。当時はまだ3Rやアップサイクルという言葉も聞き慣れない時代でしたので、そういう感覚もないまま、自然の流れでリサイクル事業がスタートしました。しだいに「この材料を使って家具やインテリア商品を作ってほしい」という要望の声をいただくことが増えたのですが、杉の足場板は資材が有限で、何でも作ることができるわけではありません。そこで、『私たちはこういう会社で、こういう材料で、こういう方向性でものづくりをしています』と発信するために2008年からTOKYO DESIGN WEEK (当時はTOKYO DESIGNERS WEEK)に5年間出店しました。ここに出店することで、インテリア素材の中で足場板の認知度が高まりました。
面白いのは、同業者からの認知度も上がったことです。杉の足場板の再利用の需要が増えてくると、自分たちが持ってる材料だけでは間に合わなくなってきます。あくまで、私たちが保有している杉の足場板から定期的に不良材として出てくる現役を引退した板の使い道ですから、急な量産はできません。不良材の数を予測して、それに基づき新しい材料を投入することの繰り返しなので、そうこうするうちに再利用する足場板の生産が追いつかず生産のための材料が足りなくなる時期がありました。そんなとき、同業者の間で課題となっていたのは、不要になった杉の足場板の処分の仕方です。2000年頃の当時は、まだ野焼きが当たり前にできた時代でした。つまり、自分たちでお金をかけずに処分することができました。しかし2003年頃から野焼きは禁止になり、産業廃棄物として処理料が必要になりました。それまではタダで処分出来ていたものが、月に大型トラック1台10~15万円、年間で120~180万円の処理料がかかり、同業者は処分に困っていました。そこで私たちは、同業者から、不良材となった杉の足場板を買い取ることにしました。「ゴミを持っていってどうするの?」と言われながら、業界では、変な会社があると話題になりました。
今や、かつてライバル企業だった日本全国の同業者は、材料供給に協力してもらっている私たちのパートナーです。業界の会合に参加して「皆さんのところでボロボロになった足場板がこんな風に生まれ変わっていますよ」と話をすると、大変盛り上がり、パートナーの輪もさらに広がっています。
中津 ライバル企業がパートナーになったのですね。なぜ、同業者は杉の足場板の再利用に乗り出さないのでしょうか?
中本 私たちは、杉の足場板を専門にやっているから杉の足場板の再利用に取り組むことができます。冒頭でもお話したように、現在の足場板の主流はスチールやアルミなどの金属で、杉の足場板は「その他」の分類となります。つまり足場板を扱う同業者にとって「その他」の割合である杉の足場板は本体業務とはあまりにかけ離れていて、注力することが難しい背景があります。おまけに木ですから腐りやすく、管理の煩わしさがあります。
我々は杉の足場板を専門として扱っているいるため、木が腐るということにずっと向き合ってきています。同業者が3年で使えなくなる材料を、我々のノウハウで倍の6年持たせることができます。ノウハウといっても単純で、ちゃんと一枚一枚を洗って、乾かして、板と板の間に風を通して、保管することで長持ちします。しかし、そんな手間のかかる管理をするところはありません。杉の足場板は単価も高くなく、消耗品のため、腐ったらどんどん処分して、新しい板に買い替えた方が安くすみます。
ただ、木と向き合ってきた私たちは、手をかけて長持ちさせ、使い込み、磨くことによって杉の足場板が新しい素材に生まれ変わり、新しい価値が生まれることに気づいたのです。
Nagatacho GRiDもそうですが、築何十年という歴史のある建物をリノベーションした物件に、新品のピッカピカの杉板の建材はなんだか窮屈で、合いません。しかし使い込んだ味のある杉の足場板は自然と溶け込むことができます。Nagatacho GRiDは、B1から6Fまで全部私たちの足場板を使用していただきました。建設現場で何年もボロくたにされた板が、再生されて蘇って、皆さんのお役に立っている。そう思うとなかなかすごいことですよね。
中本 常に私のなかでテーマにしているのは、日本の杉の魅力の発見と可能性の追求です。日本には、戦後に植林された杉の木がふんだんにあるものの、活用されていないという現実があります。そのため私たちが率先して行いたいのは、日本の杉を積極的に有効活用することで暮らしを豊かにすることです。世の中はどんどん便利になって、リスクを追わなくても簡単にものが手に入る時代になりました。だからこそ、想像力が刺激され、鍛えることができる手作業やものづくりは大切なのではないかと思っています。杉は身近で安く手に入る材料で使い勝手もいいので、杉を使ったDIYやものづくりを促進していきたいですね。
2017年11月、広島のWOODPRO本社に、『廃材の森』という場所をつくりました。元々は資材置き場の一角が森になっていたのを切り開いて、廃材を集めた場所です。全国からWOODPROに集まってくる不要になった杉の足場板は、1/3が家具に生まれ変わり、また1/3は建材として床や壁などの内装材に生まれ変わります。けれど、残りの1/3は我々の利用ガイド基準には合わないため、廃棄せざるを得ません。しかし、廃材といっても用途によっては使うことはできます。そこで、WOODPROが運営する『廃材をおもしろく利用する会』のFacebookアカウントの会員になることで、1000円で好きなだけ廃材を持ち帰ることができるようになっています。トラック一台分持って帰る人もいれば、その廃材だけで部屋やお店の内装を作ってしまう人もいます。イラストレーターの黒田征太郎さんは、廃材を用いてアート作品をつくられました。また、広島市内の人気BBQ店では、その燃料として廃材を使ってもらっています。このように、人に喜んでもらって、多種多様な廃材の使い道が生まれるのは、私たちWOODPROにとって大変嬉しいことです。
また、2017年5月に『レインボー倉庫広島』というクリエイティブな人々が集まるコミュニティスペースをつくりました。そこでは、アーティストやクリエイターと私たちが一緒にものづくりをし、私たちはその商品をプロデュースしています。この20年間の活動の中で、様々な方と良いご縁をいただいたのが私たちの財産です。MIDORI.so さんからGaiaxさんをご紹介いただいたように、これまでのご縁から、また違った展開で人が繋がっていくのが嬉しいですね。GaiaxさんのNagatacho GRiDもそうですが、人がつながる場があるってとても良いと思います。
中津 Nagatacho GRiDと協働している杉の足場板のプロジェクトがあるんですよね。
中本 はい。Nagatacho GRiDの屋上では、足場板を育てています。『PASS THE ASHIBA PROJECT』といって、杉の足場板が役割を変えて、いろんな人の手に渡って、役立っていくためのプロジェクトです。
今はグレイッシュな素材がトレンドになっていて人気があります。このように落ち着いた、古めいた様子の上品な古材は、現場で作ろうと思っても作ることができませんが、ここNagatacho GRiDの屋上だったら、日々太陽や雨風にさらされることにより醸成(経年美化)することができます。屋上の足場板として使うことで、木材の価値を上げているんです。2年以上使うと木が腐ってくるので、その前の1番素材としていいところでみんなでワークショップをして、剥がして、次へバトンタッチして、また新しい足場板を入れるというサイクルです。前回板を張りかえるときは、足場板を使って小さな家具をつくるワークショップを計画していたのですが、足場板が全て売り切れてしまって…(笑) 嬉しい誤算でしたね。前回はワークショップができませんでしたが、次回は、ワークショップを開催して自分でつくったものを持ち帰ってもらいたいですね。
足場板を次につなげるために取付けビスにもこだわりがあって、長年の使用でも朽ちない高価なステンレスのビスを使用しています。そのため、足場板を入れ替えるときに抜いて、また次の2年後に新しい足場板を入れるときに使うことができますよ。このような、杉の板が人と人を繋いでいくことへの想像力や、杉の板の価値の変化のストーリーなどに、Nagatacho GRiDを利用するみなさんに触れてもらいたいなと思います。
中津 中本さん、ありがとうございました!
つながろう、自由になろう
GRiDの屋上『Cloud9』は、9:00~18:00の間ご自由にご利用いただけます。※イベントスペースとしての貸し出しは行なっておりません。
Nagatacho GRiDは、新たな社会を構想する人がつながり活動するコミュニティビルとして、スペースを一緒に利用するだけではなく活動や協業を生み出すことを目指して運営しています。
ガイアックスコミュニティに参加して自分らしくGRiDを活用しませんか?
https://midori.so/places/nagatacho/