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「社内コーチ」の先駆者として対話を生み出す
〜Sansan株式会社三橋新さん〜

最終更新: 2023年11月9日

時代の変化のスピードが著しい昨今。働く人が会社の指示によって動いていた時代から、少しずつ個人の自主自律にスポットライトが当たることが増えてきました。個人のあり方の探求に寄り添い、その個人が集うチーム内での対話を促す。先駆者として「社内コーチ」という存在を確立してきたSansan株式会社の三橋新さん。どのような想いとプロセスで、会社にコーチング(*1)を導入してきたのか、三橋さんとSansanの7年間の歩みに迫ります。
*1: コーチングとは、相手の話に耳を傾け質問を重ねることにより、相手の潜在的にある想いや答えを引き出し、目標達成に向け行動変容を促すためのサポートです。

コーチングは絶対いいもの。でも会社への提案のイメージは湧かなかった

ー コーチングというものに出会ったきっかけは?

今から7年ほど前、当時、100名ほどいた全社員からフィードバックをもらう機会があり、「おまえの強みは雰囲気だ。場がComfortableになる」と言われました。自分としては、業務改善やビジネスフローの作成が得意だと思っていたのに、全く違う角度からフィードバックがきたことで、思考の転換になりました。そして考えていく中で雰囲気を強みとした場合どんな職種、役割があるんだろうと考え、図書館で本を探しているときに、CTIジャパンというコーチ養成機関が出している『コーチング・バイブル』という本を見つけました。それがコーチングとの出会いです。
本には”人の可能性に焦点を当てよう”ということが土台にあると書かれていて、まさにやりたいことはこれだ、という衝撃がありました。仕事は自分の人生の可能性を大きく広げるもののうちの1つだという自分の考えともリンクし、早速コーチ養成のコースを受講。水を得た魚のごとく、楽しく学んでいきました。

ー どのようにコーチングを社内に持ち込んだのでしょうか?

当初はコースに通いながら、社内で「勉強中だから、コーチングさせて」と声をかけ、ランチタイムにお弁当を持ち寄って話すという、気軽な感じで始めました。
その後コースでの学びとともに、コーチングに関する知識が増え、その学びを実践する、という日々が続くにつれ、会社の制度として形にしたいなという想いが出てきて、どうにか社内のオフィシャルなものにできないかと、社内部活制度の”よいこ”(良いコミュニケーションを生むの頭文字を取って、”よいこ”)として制度化しようと思い至り企画書を作成し、申請しました。最初は3~5人で始まったこの企画が後に、会社としての取り組みへと発展することになりました。
いわゆるベンチャーで、高い目標に挑み続ける人が多いからこそ、身近な人の力になりたいと思い、朝、昼、晩の業務外の時間を使ってのスタートでしたが、社内の制度にする日を思い描きながら、部活として1年半ほど続けました。

arata.mitsuhashi
arata.mitsuhashi

2年かけて社員の半分にコーチングしたら、バズり始めた

ー 少人数の部活だったところから、どのように社内に浸透していったのでしょうか?

部活としてコーチングを実践していく中で、コーチングは絶対いいもの、という感覚がありながらも、会社への人事制度としての提案イメージは湧いていませんでした。でもきっと全社員が体験したら、形になるのではないかと思い、とにかく手当たり次第、声をかけ展開させていきました。
その過程において、当時150名ほどいた社員のうち、半数の70名ほどにコーチングを終えた段階で、”バズり始めた”という感覚が生まれたんです。その時社内情シスとして、業務にあたっていたのですが、作業中やエレベーターなど、いろいろな場で「今度コーチングしてください」と声をかけられるようになりました。また、同期でもある営業部長から突然「おまえ、忙しくなるぞ」と言われ理由を聞いてみると、部長会でメンバーのモチベーションについての話になり、”どうやらコーチングがいいらしい”と話題に上った、と教えてくれたのです。周りの反応が変わっていくのを実感した瞬間でした。

ー 周りの反応が変わり、制度となったきっかけはどんなことだったのでしょうか?

その時、自分も社外でコーチをつけコーチングを受けており、いろいろな行動目標を立てチャレンジをしていました。その中で印象的だったのは、弊社代表へのコーチングでした。結果としては、価値を出せたという実感はなかったのですが、コーチングの雰囲気はつかんでもらったという感覚はありました。一つの山を越えた、そんな感じがしました。
その後、弊社代表と人事部長との合宿にて、今やるべきことについて議論するタイミングがありました。課題解決は日常的に重点を置いてやっているのでできていると仮定し、伸びしろを伸ばすために何ができるか?と問いを転換した際、オフィス環境改善と健康施策、コーチングの3つが挙がったと聞き、遂に人事部長から、「制度になるから」と言われました。ガッツポーズ!の瞬間でした。

会社の文化とコーチングの文化。互いの理解で、融合を生む

ー 2016年、”コーチャ”というネーミングで始まった社内コーチ制度。社内への展開はスムーズだったのでしょうか?どのような葛藤がありましたか?

一番苦悩したのは、会社の文化と、コーチングの文化の融合です。最初は、例えるとお互い違う文化の国同士である、という印象でした。自分としては、コーチングはいいものだし、数値化するものでもない、という感覚がありましたが、会社で実施が承認されるためには、事業としてどんな成果を期待できるかを求められます。
最初は、相手の国に受け入れられている感覚を持てず、よいものなのになぜ分かってもらえないのだろうというのが一番の課題でした。独りよがりな状態でした。
しかし現在は、相手の国の中に入り、その文化を取り入れ、同じ言語を使っていかないことには融合はしていかないと分かったので、数値化したり、見える化するようになりました。会社側は、いいと言うのは分かるけど説明がつかない、という葛藤があったと思います。過程を見守り、続けさせてもらえたことは、本当にありがたいな、と思っています。

ー すべての人がコーチングを取り入れることに前向きだったのでしょうか?

コーチングを体感していない人、リーダーや自走できる人に、コーチングが必要だということを伝えていくことは、難しくあまり意義を感じていませんでした。しかしきっかけとして、営業とエンジニアのリーダー向けにNVC(*)研修を実施し「感情を扱うことが大事」という概念に触れていただきました。
今までの論理的思考中心だった考えに新たな引き出しが増え、人を人として扱い、感情を聞いていくというプロセスを知っていただいたことで、研修を受けたリーダーから「こういうメンバーがいるんだけど、どうしたらいいのか?」という相談が入るようになりました。その相談がチーム向けのコーチングに発展し広がっています。
今できること、やりたいことから入っていき、少しずつ形になっていった感じがあるのですが、本来はその流れもデザインできていたらよかったなと思います。これは僕の残念なところです。笑

nvc
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個人コーチングの限界と、チームコーチングの可能性

ー 4年ほど社内コーチとして活動されていて、今はどのようなことを感じていらっしゃいますか?

ここ数年で、個人コーチングだけでアプローチしていくことの限界を感じました。いくらコーチングセッションで個人の意欲が上がっても、現場のチームに戻るとやれない、ということが出てくる。そこにはチームメンバーとの関係性の話があり、どちらも扱うことが重要だと思うようになってきました。
しかし、チームコーチングは、個人への1on1コーチングより取り扱いが難しく、やりたいと思う人、やれる人が少ないという現実があります。関係性に触れていくので、いわゆる修羅場と言われるような場面もあり、その間に入って、対話を促していく。覚悟や勇気がないとやれない役割だなと思っていますが、今後、自分のリソースはそこに使っていきたいと思っています。

ー 難易度の高いチームコーチング、どのように推進していったのでしょうか?

個人コーチングをやり続けることに源泉がありました。リーダークラスの人に話を聞いていると、必ずチームの話や、関係性の話が出てくるんです。そういう時に、チームコーチングの提案をしたり、チームコーチングをしたときにメンバーだった人が後にリーダーになって、取り入れてくれたり。そうして実績を増やしていきました。個人もチームも両方、声がけして、巻き込んでいく、というのはどちらも同じですね。

ー 三橋さんご自身の今後の活動についてお聞かせいただけますか?

今、社内でコーチングに関わるメンバーが僕を含めて3人います。一人は中途採用で弊社に入社したメンバーで、もともとアンガーマネジメントを学んでいた人だったので、一緒にやろうと巻き込んでいきました。もう一人はエンジニアのマネージャーだったんですが僕とのコーチングを通じて、「自分もやりたい!」と勉強を始め資格を取得しました。
個人コーチングについては彼らに渡していき、僕自身はチーム向けのコーチングやマネジメント向けの研修を行っていきたいなと思っています。同じ時間で大きなインパクトを与えられるので、チームの進化に関わっていきたいと考えています。
それには、会社の文化が変わりはじめていることが要因としてあるかなと思っています。もともとうちの会社はコーチングも研修もいらず、”成果に向き合うことで最大の成長をする”という文化だったのですが、社員が600名を越え、フェーズが変わってきました。会社としてのニーズも出てきたし、僕としてもやれることが増えてきた、というのはあるかなと思っています。

ー 最後に、三橋さんのように、社内にコーチングを導入したいと思っている方へ、メッセージをお願いします。

浮かぶ言葉は、”覚悟”と”勇気”の2つですね。覚悟があればやり続けられるから、やり続けたら成功すると思います。自分の人生の目的とつながって、本当にそれをやりたいかを問うて、覚悟を持って進んでほしいですね。勇気は、自分だけじゃなんともならないことがあるので、「大変だよね」とか「こういう時どうする?」と勇気を持ち帰ったり、傷ついた心を癒せる場があるといいんじゃないかな、と思っています。孤独は一番苦しいですから。一緒に、やっていきましょう。
*NVC
Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション。1970年代に、アメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士によって体系化され、提唱された、自分の内と外に平和をつくるプロセス。

インタビュー:荒井智子
ライティング:樗木亜子

編集後記
三橋さんの覚悟と勇気が、すべてのエピソードに詰まっているなと感じました。そして一挙手一投足、ていねいに積み重ねていった結果が今に繋がっていること、自分を振り返るきっかけになりました。この記事が社内へコーチングを取り入れようとするみなさんの一助になれば、うれしいです。

荒井 智子
2013年4月にガイアックスに入社し、2年間法人営業・海外営業、社長室立ち上げなどを経て、2015年に「働く人の心と身体を健康にしたい!」と会社に訴え、社内でケータリング型社員食堂をスタートし、2017年にtiny peace kitchenとして事業化。2020年に社内コーチプロジェクトを発足し、2022年にブランド&カルチャー推進室の責任者に就任。
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