「あなたのミッション、やりたいこと何ですか?」
ガイアックスでは当たり前のように、日常的に問われる質問。でも、自分のミッションと言われて、困る人も当然います。今回お話を伺った、元ガイアックス社員であり、現アディッシュ株式会社取締役の杉之原明子(すぎのはら あきこ)さんも元々は「やりたいことなんてなかった」と言います。
「学生時代は普通に丸の内OLになることを目指していました」と言いながらも、ガイアックスに入社してから新規事業立ち上げ、所属部署の子会社化、取締役として会社を上場させる経験をしてきた杉之原さんに、今までのキャリアについてお話を伺いました。
インタビューしたのはガイアックスの荒井智子さん。2013年頃、同じ部署に所属していた二人が、当時の様子を振り返りながらお話を進めていきます。
第一部のブログはこちら:「やりたいことがなかった」私が、上場ベンチャーの女性役員になるまでのファーストキャリア
第二部のブログはこちら: 悩んで、向き合い続けたからこそ切り開けた、上場ベンチャーの女性役員というキャリア
「女性の役員が少ない」という現実に、ポジティブに向き合いたい
働きやすさや、制度の充実だけでは女性役員は増えない
荒井:杉之原さんは今後「女性とキャリア」や「女性と経営者」というテーマに挑んでいきたいと伺っていますが、具体的にはどのようなことに関心をお持ちですか?
杉之原:女性活躍と一口に言っても、私が今関心を持っているのは、いかにして昇進の仕組みを改善するかということなんです。
アディッシュを設立した時は、女性も含めて、誰もが声を上げれば自分で働き方やキャリアを作れる会社を作りたいと思っていました。そういった制度や環境は、ある程度作れてきたと思っているんです。
だからといって、次の取締役の候補者に女性の名前が入っているかというと、そうはならないんです。働きやすさと、役員に女性がいることはリンクしてないんだとこの5年間で気づきました。
他社を見ても女性の経営層は探さないといないですし、アディッシュも、最初6人だった役員が今は11人になりましたが、女性は当初と変わらず私だけなんですよね。単純に女性の役員が少ないという現実があって、この事実にポジティブに向き合いたい気持ちです。
アディッシュの社員は、女性の方が少し多いくらいですが、中間管理職になると男性が8割ほどになり、役員になると男女比は9:1になる。
FacebookのCOOであるシェリルサンドバーグは、女性の役員比率が少ない原因を「壊れたはしご」(昇進の階段を上るとき、女性の階段(はしご)は壊れているので、最初の一段から足を踏み外し、なかなか上へ登れないという理論)と表現しますが、はしごの下へ降りて行き、人が昇進することを働きかけることを「スポンサーシップ」と呼ぶそうです。
私は、そのスポンサーシップを高めていきたいという気持ちがあります。
アディッシュに松下さんという女性がいます。彼女は元々専業主婦だったところから、アルバイトとしてガイアックスに入り、アディッシュに来てから5年間一緒に働いて、今年部長になったんです。私がした事は、業務を整理して新しい挑戦ができるようにすること、全社的に人を巻き込むプロジェクトにアサインすること、経営会議で発表してもらい経営層との接触機会を増やすことでした。これは通常の1on1やメンターを超えたスポンサーシップの役割を発揮していたと思っています。1on1だけでは女性役員が増えないことはもうわかったので、スポンサーシップがあふれる仕組みを作っていきたいですね。
もう1つ、社外の役員の方とスポンサーシップを発揮しあうコミュニティを作ろうとしています。アディッシュには女性役員がいるけど、世の中は5社に4社は課長以上の職の女性はいない。そういった会社に対しても、スポンサーシップを発揮しあえるような流れを作るために、コミュニティを作りたいと考えています。
男性に対して当たり前に行われていた「スポンサーシップ」を、全体に発揮することが大切
荒井:なぜ女性はスポンサーシップを受けにくいのでしょうか?
杉之原:私自身のスポンサーは、最初の上司であり、江戸であり、上田さんであると思っていますが、いろいろ見ていると、女性がスポンサーシップを受ける仕組みになっていないとわかりました。
人は、自分に似ているメンバーを引き上げる。その力の働きをMini Me(ミニミー)文化と言うそうです。男性にとってのMini Meは男性になりやすいから、男性はスポンサーシップの中で上司が部下を引き上げることが当たり前に行われているんです。女性だから難しいというわけではなく、スポンサーシップが女性に対して当たり前に行われていないのだと理解しました。1on1を申し込む時も、女性は女性のメンターを持つことが多いそうですが、そのメンターが役員じゃないから、引き上げる力を持っていないんです。
議論が「女性だから」や「女性の特性が」となった瞬間に、私からすると全部言い訳なんですよ。女性が引き上げられる仕組みが整っていないんだと理解し、仕組みを作っていくことに興味があります。
荒井:スポンサーシップがあれば、階段を上っていける女性が増えそうだという感触はすでにお持ちですか?
杉之原:男性の社会の中で当たり前に行われていたものが、全体に行われるイメージを持っています。男性女性ということだけでなく、働き方も、フルコミットや時短だったりする。どんな切り口でもいいのですが、タレントベースや能力ベースでスポンサーシップが発揮されて、働く人たちの自分事の範囲が広くなっていくといいなというのと、スポンサーシップが高まることで女性の比率が増えているといいなと思っています。
荒井:スポンサーシップを高めていくには、どういったアプローチが必要になりそうですか?
杉之原:スポンサーシップの事例として言われるのは海外の大企業だったり、日本でも生保系の大企業はスポンサーシップのプログラムを作っているようですね。
最終的には目標を据える形になると思いますが、今の段階で目標をガンと据えてしまうと、いろんな歪みが出るかもしれない。まずはスポンサーシップの事例として男女のペアが増えて、それが見える化されているとか、柔らかい入口があるといいのかもと思います。最初の2年間くらいはソフトな感じで、男性と女性が半々の世界やコミュニティを作って実験してみるとか。プログラムをいきなり作るというのは成功するイメージを持てないですね。
「社外にいる身近な女性役員」として幅広く活用していただきたい
荒井:杉之原さんがそういった内容についてtwitterやnoteで発信されることによって、影響を受けている人も多いと思います。メッセンジャー的な役割も担われていると思いますが、どんな思いで発信をされていますか?
杉之原:人生全体を考えた時に、やりたいことがなかった私も、感情やエンタメを職場に持ち込んだり、私自身が女性役員になれていることなど、ようやくいろんな柱が立ってきました。私が動いても動かなくても、女性管理職の割合は30%に向かう未来だとは思いますが、人生を通じて働きかけていきたい思いは強くなっています。自社もさることながら、他の会社の人とコミュニティを作ったり、社外の存在として経営の計画を一緒に作ったり、外に対しても役割を発揮していきたいですね。
荒井:杉之原さんに相談したいという人はどうしたらいいですか?
杉之原:twitter、facebookやnoteでメッセージをいただければと思います。
今後、ベンチャー企業で多様性をもたらしたいと思っている経営層と対話をして、お互い実験し合いたいし、「社外だけど身近にいる女性役員」として関わっていきたいです。
また、男女関わらず、チームを持っている若手で、「チームをより良くしていきたい」「社会を良くしていきたい」というマインドを持っている人には分け隔てなく力になりたいと思っているので、幅広く活用してほしいと思います。
「ガイアックスが変わるとしたら、何から始めたらいいですか?」杉之原さんに聞いてみました。
ガイアックスには実験できる土壌があるから、経営陣が一度退任してみたらいかがでしょう?(笑)
荒井:今はガイアックスも経営陣は全員男性ですよね。もしガイアックスが変わっていくことを望むのなら、何から始めたらいいでしょうか?
杉之原:ガイアックスは、働きやすさや、個のやりがいや動機をベースに会話する環境は整ってきていると思うんです。役員や経営層に女性がいないという状況ですが、土壌はあると思っています。
人の会社には何とでも言えますので、全員退任したらいいと思いますよ(笑)経営会議も、何も考えずに任期終わり。全く新しくアサインして、1〜2年実験してみたらいかがでしょう?
ガイアックスはそれをしても大丈夫なくらい、事業部が自走しているし、権限を渡しているわけだから、実験ができる会社だなって。
荒井:例えばみんな退任したとして、選出するにしても挙手制にするにしても、経営会議を担うメンバーに手が上がるイメージがあまり湧かない…
杉之原:そこは手を上げる上げないとかじゃなく、抜擢です。そこばかりは対話をしていても、誰もわからないと思います。女性としても、経営層になってみないとわからないことがあるわけだから、ちょっとドラスティックに変えることも必要かな。
荒井:現状だとガイアックスの女性たちも働きやすくて満足していて出世よりは自分らしく生きることを重視している印象です。女性の比率を上げるというのもたまに議題として上がることはあっても、誰かが強い意志を持って決め切って走らないと変わらないということかな。
杉之原:日本の女性役員の比率を見ても遅々として上がらなくて、2030年に向けて30%を目指すと言っても手が上がるのを待っていたら達成できないんじゃないかなと思います。世界的に、多様性や役員における女性比率が注目されることで、株主の目線が変わったり、外堀から埋まってきているとは感じますが、経営陣が「一生この席にいる」と思っていると変えられないと思うんですよ。先ほどガイアックスに対しては実験という言葉を使ったけれど、実験はしていいのではないかと思います。
最後に、ガイアックスの上田さんから質問が来ています
荒井:ガイアックスの上田さんから杉之原さんに質問が来ています。
「ガイアックスが杉之原さんのような人を再生産するには、何をしたらいいと思いますか?」
杉之原:人に対して「生産」という言葉を使わないでいただきたいと思いますけどね(笑)
きっと再現性みたいなことですよね。
ガイアックスはスポンサーシップに溢れてると思うんです。機会も提供されているし、自分から動けば対話ができる環境もある。仮に「私のような人」をその環境に迎え入れるとしたら、思いがけず留年したり、コツコツとドリルとかやってきたような人を80人くらい入れてみるとか。
荒井:今のガイアックスが採用ターゲットとしている層とはけっこう違いますよね。
杉之原:違うと思います。上田さんと村井さんのYouTube動画を見たんですけど、村井さんも最初は全然仕事ができなくて、行動は変ですけど(笑)、議事録を作ることで信頼やチャンスを引き寄せてきたと思うんです。
だから、「はじめから固まったミッション」を持っていることに軸を置くより、幅広く別の層も入れてみるのはどうでしょう?
ちなみに私は、当時の営業の役員からは「スギちゃんがガイアックスの新卒採用を受けてきたら、俺は見抜く自信がない」と言われていて。インターンだから内定がもらえた。普通に見たらNGだったんですよ(笑)
荒井:そういうクジも引いて見たら、意外とアタリもあるかもしれないと。
杉之原:引いてみたら、意外といいことがあるかもしれないですね。
最近気づいたんですけど、私は、会社のミッションや自分のミッションに感情移入や共感するのはさることながら、もう一つの車輪として人間関係に感情移入をする特徴があるなって。
ミッションももちろんだけれど、人間関係を大切にしたり、もっとよくしたい、役に立ちたいというマインドがある人を採用要件の中に入れていただくといいかもしれません。
荒井:コツコツやりつつ、人間関係もちゃんと大事にしていく。そういうところがエモーションなんでしょうね。今日は杉之原さんの奥行きや多面性を改めて知れてよかったです。ありがとうございました!
インタビュアー:荒井智子
ライター:黒岩麻衣
編集後記
3回に分けてお届けした杉之原さんのインタビューも、これで最終回。自分に軸がある人って、よく通るいい声をしているんですよね。今後は社外へも活動の場を広げていきたいとのことなので、杉之原さんに相談したいという方、チャンスです!
このインタビュー記事の動画も是非ご覧ください
Vision Notes Episode 2 – アディッシュ株式会社取締役 杉之原明子
『「やりたいことがなかった」私が上場ベンチャーの女性役員になるまでの物語』