「起業したい!」と思ったのはいいものの、何から手をつければ良いのかが全く分からない。
そのような方のために毎月、Gaiaxの新規スタートアップ事業であるOtellの立ち上げを流れを全てリアルタイムで曝け出し、解説しています。
第8回である今回の記事では、サービスの独自価値を磨いている様子(10月)を公開します。
リアルタイムでリアルなスタートアップ立ち上げの流れを学び、Otellと共に成長してみませんか?
Otellとは
Otellは、現在(2020年11月〜)株式会社ガイアックスの新規事業として開発中の、「平日長期滞在を希望する人のための宿泊施設予約サイト」です。
- 家だと余計なものが多く、環境的に集中できない
- 家にいると煮詰まるので気分転換、リフレッシュがしたい
- カフェやコワーキングスペースは情報漏洩の観点からあまり使いたくない
という方のために、宿泊施設の部屋をお手頃な価格で月曜〜金曜の4泊5日単位で提供するサービスです。
LP(ランディングページ):https://otell.jp
スタートアップスタジオとは
社会に大きなインパクトを与える事業をアイディアからグロースフェーズまで見送る支援を実施する組織です。
出資だけでなく、事業開発・エンジニアリング・バックオフィスの支援も行うことにより、初めての起業でも、数十回の経験を経てきたスタートアップスタジオメンバーのノウハウの元、事業活動に取り組むことができます。また、アイデアの構想段階から起業後の資金調達とパートナー探しのフェーズまで、イベントなどを通して相談することも可能。ビジネスアイデアの相談をオンラインで実施し、優れた事業案には200万円の出資を行っています。
詳細は以下よりご覧ください。
» Gaiax スタートアップカフェ
2021年10月の進捗
- ストーリーカンバンボードの作成
- 市場規模を改めて算出
- エンジニアに経営層がどう寄り添っていくかを考えた
今回インタビューしたのは富士茜音さん
富士 茜音
Otell事業責任者
20卒ガイアックス入社。現在は仕事環境が整ったワーケーションにぴったりのホテル予約サイト『Otell(オーテル)』の事業責任者。ガイアックス代表の上田が解説するYouTube「経営カレッジ」に出演。大学在学中は、インドでボランティア活動や学生団体にて日本人学生向けに海外インターンシップを企画/運営などをしていた。
前回までのあらすじ
- Step1:Otellの事業アイデアは、「ワーケーション」があまり浸透していない現状への問題意識から、ガイアックスメンバー有志でアイデアを出し合って生まれた。
- Step2:アイデアが見つかったらまずはヒアリング。Facebook上などでアンケート調査を行い、ニーズを調べた。
- Step3:LPを作成し、広告を打ち、事前登録者を集めてさらにヒアリング。ターゲットユーザーの抱えている課題と欲しているサービスのイメージを鮮明にした。
- Step4:Otellβ版(MVP)リリースに向けて、会社の法務部と連携し、旅行業取得の準備と利用規約の作成に取り組んだ。
- Step5:β版(MVP)リリース後、Webサイト分析ツールを駆使し、また、ユーザーに目の前(zoomの画面共有)でサービスを利用してもらい、UI UXの悪い箇所を洗い出し、修正した。
- Step6:β版(MVP)のUI UXが改善された段階で、プレスリリースを発表。データや調査結果も記載することでサービスの説得力を高めた。また、それによりユーザー数とホテルからのお問い合わせが大幅に増加した。
- Step7:Otellのビジョンを再確認。
- Step8:KPIを設定しようとしたが、PMF達成前のスタートアップは方針が頻繁に変わるため、長期的な目標はまだ立てられなかったため、必要ないと判断。
- Step9:営業方法を、多く問い合わせる手法から、いくつかの企業を狙い撃ちする手法に変えたことで欲しい契約先としっかりと契約できるようになった。
- Step10:新規ユーザー獲得のため、TwitterとFacebookでワーケーションが当たるキャンペーンを実施し、Otellをより多くの人に知ってもらうことができた。
- Step11 サービスを使わない人の理由を調べ、サービスの欠点を洗い出す。
- Step12 洗い出したサービスの欠点を補い、さらにサービスの特徴を磨くことによって、独自価値をアップデート。
- Step13 サービスのUI・UXを改修し、より多くの人に使いやすいサービスへ。
- Step14 新しい機能(ポケットwifi貸し出し)を仮リリースして需要があるか検証した結果、期待していたほどの需要はないと判明した。
- Step15 独自価値をより尖らせたブランドを作り、検証を開始した。
- Step16 サーベイの実施によって得られたサービスの需要を裏付けるデータ・分析結果をプレスリリースで配信し、様々なメディアで使ってもらえる状態にした。
- Step17 ユーザビリティーヒアリングを実施し、MVP検証を行った。
- Step18 PSF検証を行い、Otellがユーザーに刺さるサービスかを検証した。
- Step19 チームのコミュニケーション方法を新しくした。
- Step20 方針の見直しを行うことで、立てるべき戦略が明確になった。
- Step21 下半期に行う新たな戦略の策定。
- Step22 Otell独自のカオスマップのリリース
- Step23:泊数の見直し
- Step24:客室の仕事環境情報の改善
- Step25:事業計画を改めて作った
Step26:ストーリーカンバンボードの作成
矢野:早速ですが、今月は何を行いましたか?
富士:今月は「ストーリーカンバンボード」を作成しました。
Otellチームの課題として、様々な施策に対するアイデアが多く生まれる反面、何を行い、行わないのかを決めるのが難しくなっている、というのがありました。
全ての施策が重要なので、同時に着手したかったのですが、どうしてもそれをすると全てが中途半端になってしまい、どの施策もクローズを迎えることができないという懸念があったんですね。
そこで、今回はこのボードを作成することによって、検証する施策の上限個数を決め、その時に必要な施策だけに絞って、アクションを取ることができるようになりました。
この「ストーリーカンバンボード」の作成には、田所雅之さんの『起業大全』という書籍を参考にしています。
矢野:なるほど。この方法でチームとして何から着手すべきか明確にすることができたのですね。
富士:はい。こうすることによって、タスクの優先順を並べ替えること。そして、現状では何が検証中で何がそうでないかという共通認識をチームメンバー全員がとることができるようになりました。
このボードには、ヒアリングの分析結果などから導き出された「ユーザー体験」、それに対応する「サービスの機能」を書き込みます。そうすることで、その施策がどのような目的で行われているのかが明確になります。
矢野:なるほど。このボードを作る際に難しかったことなどはありますか。
富士:1つの「ユーザー体験」に対して、1つの機能とは限らない部分ですね。管理の難しさを改めて感じました。この点については、今後改良を重ねていきたいと思っています。
また、よりこのカンバンボードをチーム全体が理解できるようにしたいとも考えているんです。そうすることで、目的やKPIについての共通認識が取れるので、各チームメンバーの意思決定がより行いやすくなるのでは、と考えています。
Step27:市場規模を改めて計算
富士:次に、Otellの市場規模を改めて算出し直しました。
矢野:この算出は事業を検討するタイミングでも行ったかと思うのですが、なぜ今回このタイミングで改めて行ったのでしょうか。
富士:理由の1つとして、資金調達を考えるタイミングが来たからというのがあります。
これまではガイアックスのスタートアップスタジオのスキームを利用し、検証に使う費用はサポートいただいていました。(※事業によってスキームは様々です。)
ただ、次のステップに進むにあたって、イグジットの時期や方法を考える必要があったので、改めて市場規模の算出を行ったとうのが背景にあります。
矢野:このタイミングで市場規模を考え直してみてどうでしたか。
富士:事業立ち上げのタイミングで市場規模を算出した当時は、まだサービスも何もない状態。「ワーケーション市場」といったワードでのざっくりとした括りでのみでしか計算ができませんでした。今回の市場規模の算出では、よりOtellがどの市場のどのエリアに該当するのか、またそれ以外の市場ならどこにポテンシャルがあるのかといった部分を明確にさせることができました
矢野:より厳密に市場規模を算出させることができたのですね。
富士:はい。今回は厳密に算出するにあたって、TAM・SAM・SOMの考え方に則って算出しました。
TAM(Total Addressable Market)を考えることで、特定の市場において獲得できる最大の売上を見通すことができます。それによって視野が狭まっていたものが広がりますし、自分が取り組んでいる市場を再認識することが可能です。
例えば、研修市場にアプローチするのか、旅行市場にアプローチするのか、などでは規模が大きく違うので、ここを再検討することでチームとして取り組むべきマーケットがどこで、どの程度の規模のものなのかを明らかにすることができると思います。
矢野:なるほど。ではSAMを考えることで見えてきたものは何ですか。
富士:SAM(Serviceable Available Market)を考えることで、Otellが設定したターゲット対象の総需要を明確にすることができます。SAMを見るによって、どこまで事業の幅を広げていくことができるのかを明らかにするという目的がありました。今まで事業を進めていく上で、Otellの対象ターゲットは市場としてニッチすぎるのではないか(SOM(Serviceable Obtainable Market)が小さすぎるのではないか)と考えてしまっていました。そのため、SAMを明確にすることで果たして本当にニッチなのか、またOtellがどの市場まで手を伸ばすことができるのかを明らかにする必要があったのです。
矢野:なるほど。つまり、こうすることでTAMでは算出することができない、Otellのより厳密な市場規模を明らかにすることができたということですね。
富士:その通りです。TAM・SAM・SOMを明確にできたことで、なんとなく今の市場やターゲットで何年間アクションをとっていくべきなのかということが明らかになりました。
他にも、今回の市場規模の再算出によって、開発に関して今まではノーコードで行っていたものを、よりコストをかけてコーディングに切り替えようという決断にもつながりました。
矢野:市場規模を算出することで改めて今Otellとしてするべきこと、また将来性を見越してどこにどれだけのコストを割くべきなのかということがわかったということですね。
Step28:エンジニアに経営層がどう寄り添っていくかを考えた
矢野:他には何か行ったことはありますか。
富士:あまり大きな動きではないですが、今後のことを考え、開発職とビジネス職がどのように寄り添っていくか、ということを開発メンバーと話しました。
矢野:チーム内のポジショニングについての話し合いをもったのですね。
富士:はい。認識や使う言葉のずれなどから開発職とビジネス職が揉めてしまったりする話はよく聞きます。もちろんそれ以外でも役職を超えたコミュニケーションの難しさはありますが、専門性の高さ故に特に問題が起きやすいと思っています。
Otellチームは私を含め非エンジニアの方が多いため、そのようなことを防ぐ目的で、どういう形が理想かを話し合いました。別の方の記事で読んだものですが、エンジニアという役職でも、①技術面での貢献、②UI/UXのアイデア出しやチームづくりにおける貢献、③長期目線での技術選定など経営者目線での貢献、など貢献の仕方は様々であるということがありました。①だけでもかなりのタスク量になりますが、③を目指そうというところで合意しました。
Otellの開発メンバーは「事業に寄り添った開発」というコンセプトを掲げて開発に取り組んでいます。だからこそ、要件定義を行う際、機能追加の背景などを理解できるよう、綿密な打ち合わせを行っています。また、ユーザーヒアリングに開発メンバーが同席するような仕組みも作っています。逆に、ビジネスサイドが間違った使い方で開発用語を使ってしまったり、一度開発依頼をした機能について手戻りになることが起きないためにも、エンジニアサイドとしっかりと話し合っていくことは、今後のOtellの発展のためには重要であると考えています。
矢野:なるほど。確かにこのような話し合いはチームを円滑に動かしていくためには非常に重要な工程ですよね。タスクの処理や事業内容に関する打ち合わせを優先してしまうあまり、些細なコミュニケーションが取れないというケースは多く聞かれますが、実はこのような些細な会話こそが重要だったりしますよね。
11月のタスク設定
矢野:最後に11月に取り組むタスクは何ですか?
富士:来月は、以下にある3つに取り組もうかと考えています。
- 宿泊施設へのヒアリングの強化
- Webサイトへの移行
- メディア露出機会の創出
それでは来月も引き続き更新を続けていきます。今月立てたKPIを達成することはできるのか!?スタートアップの成長を楽しみにお待ちください!
スタートアップメモ
- 施策を打つ際に、その背景に当たる「ユーザーの体験」とその施策を紐付けしてチーム全体が共通認識を持つことが大切
- 施策の洗い出しや事業に関する話し合いだけでなく、チーム内の関係性やコミュニケーションの取り方に関する話し合いなどを時より行うことがチームを円滑に動かすためには非常に重要である