「起業したい!」と思ったのはいいものの、何から手をつければ良いのかが全く分からない。
そのような方のために毎月、Gaiaxの新規スタートアップ事業であるOtellの立ち上げを流れを全てリアルタイムで曝け出し、解説しています。
第6回である今回の記事では、「サービスがPSF(Problem Solution Fit)(製品が顧客の課題を解決している状態)しているかを確認しているフェーズ(7月)」を公開します。
リアルタイムでリアルなスタートアップ立ち上げの流れを学び、Otellと共に成長してみませんか?
なお、若者で起業を考えている方にはスタートアップカフェへの参加もおすすめ。事業アイデアの壁打ちから出資、専門的なメンバー提供まで可能です。
Otellとは
Otellは、現在(2020年11月〜)株式会社ガイアックスの新規事業として開発中の、「平日長期滞在を希望する人のための宿泊施設予約サイト」です。
- 家だと余計なものが多く、環境的に集中できない
- 家にいると煮詰まるので気分転換、リフレッシュがしたい
- カフェやコワーキングスペースは情報漏洩の観点からあまり使いたくない
という方のために、宿泊施設の部屋をお手頃な価格で月曜〜金曜の4泊5日単位で提供するサービスです。
LP(ランディングページ):https://otell.jp
2021年7月の進捗
- ユーザビリティヒアリング
- サイト改修
- 広告のブースト
今回インタビューしたのは富士茜音さん
富士 茜音
Otell事業責任者
20卒ガイアックス入社。現在は仕事環境が整ったワーケーションにぴったりのホテル予約サイト『Otell(オーテル)』の事業責任者。ガイアックス代表の上田が解説するYouTube「経営カレッジ」に出演。大学在学中は、インドでボランティア活動や学生団体にて日本人学生向けに海外インターンシップを企画/運営などをしていた。
前回までのあらすじ
- Step1:Otellの事業アイデアは、「ワーケーション」があまり浸透していない現状への問題意識から、ガイアックスメンバー有志でアイデアを出し合って生まれた。
- Step2:アイデアが見つかったらまずはヒアリング。Facebook上などでアンケート調査を行い、ニーズを調べた。
- Step3:LPを作成し、広告を打ち、事前登録者を集めてさらにヒアリング。ターゲットユーザーの抱えている課題と欲しているサービスのイメージを鮮明にした。
- Step4:Otellβ版(MVP)リリースに向けて、会社の法務部と連携し、旅行業取得の準備と利用規約の作成に取り組んだ。
- Step5:β版(MVP)リリース後、Webサイト分析ツールを駆使し、また、ユーザーに目の前(zoomの画面共有)でサービスを利用してもらい、UI UXの悪い箇所を洗い出し、修正した。
- Step6:β版(MVP)のUI UXが改善された段階で、プレスリリースを発表。データや調査結果も記載することでサービスの説得力を高めた。また、それによりユーザー数とホテルからのお問い合わせが大幅に増加した。
- Step7:Otellのビジョンを再確認。
- Step8:KPIを設定しようとしたが、PMF達成前のスタートアップは方針が頻繁に変わるため、長期的な目標はまだ立てられなかったため、必要ないと判断。
- Step9:営業方法を、多く問い合わせる手法から、いくつかの企業を狙い撃ちする手法に変えたことで欲しい契約先としっかりと契約できるようになった。
- Step10:新規ユーザー獲得のため、TwitterとFacebookでワーケーションが当たるキャンペーンを実施し、Otellをより多くの人に知ってもらうことができた。
- Step11 サービスを使わない人の理由を調べ、サービスの欠点を洗い出す。
- Step12 洗い出したサービスの欠点を補い、さらにサービスの特徴を磨くことによって、独自価値をアップデート。
- Step13 サービスのUI・UXを改修し、より多くの人に使いやすいサービスへ。
- Step14 新しい機能(ポケットwifi貸し出し)を仮リリースして需要があるか検証した結果、期待していたほどの需要はないと判明した。
- Step15 独自価値をより尖らせたブランドを作り、検証を開始した。
- Step16 サーベイの実施によって得られたサービスの需要を裏付けるデータ・分析結果をプレスリリースで配信し、様々なメディアで使ってもらえる状態にした。
Step17:ユーザビリティヒアリングの実施
小菅:先月、Otellサイトの大幅改修と、新ブランド「Otell Select」の運用を開始しましたね。現在の感触はどのような感じですか?
富士:正直、まだサイトを改修してから日が浅いので、今回のアップデートがユーザーに響いたのかどうかという判断を下せる程データが集まっていないのが現状です。
なので、今はユーザビリティヒアリングによって、検証結果を知るための判断材料を集めることに時間を割いています。
小菅:なるほど。今までもずっと「ユーザーヒアリング」には取り組んできたと思いますが、「ユーザビリティヒアリング」は「ユーザーヒアリング」とどこか違うのですか?
富士:はい。「ユーザーヒアリング」ではターゲット層のヒアリング相手に対して、主に普段の行動や課題感、その課題解決のために選択している代替手段などを聞いていくもの。
それに対して、「ユーザビリティヒアリング」では最初の10分程で相手の基本情報を聞いた後に、20分間ほど使って実際にサービスを目の前で触ってもらい、その様子を観察しながら気になった箇所や、ユーザーが戸惑っていた箇所を洗い出して深掘りするというものです。
最近はZoomの画面共有機能を使って、ユーザビリティヒアリングをしています。
ただ、人に見られながらサービスを触るとなるとどうしてもヒアリングをされている方はそれを意識してしまい、解説しながら、効率化して触るようになってしまいがちです。
そうなると実際にサービスを利用してもらっている時の各ページの滞在時間を計測することができなくなり、サービスのどこがどれだけ見られているのかを判断できなくなってしまいます。
そのため、サービスを触ってもらっている間は、なるべく自分はそこに存在しないかのように思わせることが重要になります。
Step18:PSFしているかどうかの判断
小菅:まだサイト改修後のデータが集まりきっていないとはいえ、サイトの改修によってサービスの完成度が上がり、独自価値も強まってきたように思いますが、いつまでが仮説検証期間になるのでしょうか?
富士:基本的には、PSF(Product Solution Fit)するまでがサービスにおける検証期間です。
Otellに関しては、最近私もPSFを達成できつつあるのではと考えていましたが、ガイアックス社内の様々な事業部長の方に相談に乗ってもらった結果、まだPSFを達成できてはいないという結論に至りました。
小菅:なるほど。PSF達成の判断基準にはどのようなものがあるのですか?
富士:PSF達成の条件としては、主に4つの基準があります。
まず一つ目の基準は、チャネルフィット(広告)のみでサービスが広がり続ける段階に達しているかどうかということ。
広告を打てば勝手にユーザーが増えていく状態になれば、同じ課題感を持っている人が一定数いて、その人たちにサービスの解決策が刺さっていると判断できます。
また、さらに言えば、広告を回さなくてもクチコミだけでサービスが広まるようになっていれば、それはサービスがとても強くユーザーのペインに刺さっていると判断できます。
Otellの場合は、最近広告の表示回数に対して予約数が伸びていなかったり、クチコミはあるもののそれも新規予約獲得には繋がっていなかったりというのが現状で、そこからもまだPSFしていないという結論に至りました。
2つ目の基準は、新規ユーザーの熱狂度合いです。
Otellではサービス利用者向けにアンケートとヒアリングを行っていますが、そのNPS(Net Promoter Score)(サービスへのお客様の愛着度を示す「顧客ロイヤリティ」を測る指標)や、感想の文言から判断します。
NPSとは
Net Promoter Scoreの略。サービスへのお客様の愛着度を示す「顧客ロイヤリティ」を測る指標。
計測方法
「この商品やサービスを知人や同僚にどれぐらい勧めたいですか?」という質問に対してお客様に0~10の11段階で回答してもらう。
- 0~6点と評価している人は「批判者」
- 7~8点と評価している人は「中立者」
- 9~10と評価している人は「推奨者」
Otellの場合、半分以上がNPS 9〜10点の推奨者で、NPSは30%を超えていたため、新規ユーザーの熱狂度合いは良いと判断しています。
そのほかに、3つ目の基準としてお客さんのリピート率、そして4つ目の基準として、「このサービスが無くなったら困るか?」という質問に対する利用者の回答など、客観的に見た時の独自性などがあります。
PSF達成しているか、していないかによって重点的に取り組むべき部分が変わってくるので、この判断基準をしっかりと把握し、常に判断を更新し続けることが重要だと感じました。
Step19:チーム内コミュニケーション方法を改善
小菅:最近チームの動き方も変化しましたよね。それについても教えていただきたいです。
富士:そうですね、今月からチームのコミュニケーション方法を新しくしました。
具体的には、まずサービスに追加した機能や、アップデートした点に関して、全てスプレッドシート上に、誰の意見で何を変えたかをまとめるようにしました。
今までサービスに様々な機能を追加したり、アップデートしたりして、仮説検証を回してきましたが、どの機能がどのユーザーの意見でどういう理由で追加されたのか。また、その機能はどういう結果に結びつけば検証成功と言えるのかがあまり共有できておらず、仮説検証が効果的に行いきれていなかったからです。
また、もう1つあったコミュニケーションの課題として、今まで私(富士)が中心にユーザーヒアリングやユーザビリティヒアリングを行ってきましたが、その内容が全体に共有できておらず、ミーティングの際に情報の共有不足による認識の違いが多くあったことが掲げられます。
この課題に対して、今月からは全てのヒアリングの録画を、チーム全員で分担して視聴し、文字起こし・整理・共有する時間を撮るようにしました。
これらの変更によって、今後は1週間単位で確実にPDCA(Plan, Do, Check, Action)を回せるようになります。
また、今まではチーム全員で全体のタスクを処理するというスタンスが強かったOtellチームですが、全体ミーティングではそれぞれの持っている議題に割ける時間が薄まったり、偏ったりしていまい、全体的なプロジェクト進行の効率が落ちてしまっていました。
そこで、これからは役割分担して、深く議論する時間を取れるようにしていきました。
これからも役割ごとに情報が分断されることを防ぐために、ミーテイングの後の議事録の共有などは徹底していきます。
スタートアップメモ
- MVP検証においては、ユーザビリティヒアリングが重要。
- PSF達成の判断基準は、チャネルフィットのみでサービスが伸びているかどうか、NPS、リピート率、独自性の4つ。
- ヒアリング情報をチーム全体で共有することは大事。