今回のテーマは「男性育休」。
ダイバーシティの課題のひとつに「ジェンダーギャップ」がありますが、ガイアックスでは「男性育休」もメンバーのアクションが会社の文化となった一つの例です。
生きることと、働くこと。男性育休を切り口に、新しい社会においての選択肢のあり方を考えていきます。
今回インタビューをしたのは、ソーシャルメディアマーケティング事業部の雨宮広樹(あめみや・ひろき)さん。2020年10月より、6ヶ月間の長期育休を取得。育休を取得することを考えてもいなかった雨宮さんがどのような経緯で取得を決意し、どのような6ヶ月間を過ごされたのか。人生とキャリアの視点から、男性育休のリアルに迫ります。
企業のマーケティング活動においてSNSをどう組み込むかの戦略立案を担当。セミナーにも登壇してます。大学卒業後は印刷会社の営業、BtoB不動産会社のポータルサイト運営を経て現職。学生時代は国際協力に没頭し、フィリピンの山村でウルルン滞〇記してました。趣味はベルギービール、バンド活動、農業。のべ1年間の育休経験あり。
男性育休を取得するなんて考えてもいなかった
ー 育休に入る前は、どんなお仕事をされていたんですか?
企業のSNSを活用したマーケティングのコンサルティング、運用支援をするソーシャルメディアマーケティング事業部(以下、SOC)で、僕はコンサルタントとして10社程のお客様を担当していました。
ー 以前から「子どもが生まれたら育休を取ろう」と考えていたのでしょうか?
育休については、全く考えたことがありませんでした。妻の妊娠がわかる少し前に、僕の左目が網膜剥離になったんです。原因は疲労とストレスによるものでした。当時を振り返ると、SNSコンサルタントという仕事柄、PCやスマホの画面を見る機会が多く、またマーケティングの仕事が楽しくて土日も仕事のことを考えたり、業務に関わるインプットにほとんどの時間を費やしていました。そんな中で病にかかり、働き方を見直さねばと考え始めた矢先に妻の妊娠が発覚し、「一旦仕事を離れるのも自分にとってはチャレンジかもしれない」と思いました。
女性と同じ経験をすることに価値があると感じた
ー 仕事が大好きな雨宮さんが、育休を取ってキャリアを止めることに不安や淋しさはなかったのですか?
正直、不安はすごくありましたね。マーケティング未経験ながらも入社から3年半、自分なりにインプットしたり結果を出したりしてきて、復帰後に何も分からない浦島太郎状態にならないかと不安でした。特にSNSという業界の特性上、変化が早いこともありなおさら感じていた気がします。でも、その時に思ったのが、女性って妊娠したら必ず休まなくてはいけないですが、男性は休むかどうか選択できること自体がすごい自由だなって。
今後ビジネスの世界において女性の比率がどんどん上がっていき、社内外問わず女性と共に仕事をする機会が増えていくのは明らかです。ライフステージの変化の際に女性が考えることや体験することに、男性の僕が理解を超えて共感に至るには、より近しい体験が必要だと考えました。キャリアに対する近視眼的な不安よりも、この機会に女性と同じ体験をすることの方が自分にとって価値があると思いました。なので、悩んだ挙句というよりかは、あっさりと「長期で育休取得しよう」と決めましたね。余談ですが、女性と同じ体験をすることの一つとして髪を肩まで伸ばしているのですが、ラーメンを食べる時にこんなに邪魔だなんて思ってもみませんでした(笑)。
ー パートナーや仕事のメンバーはどんな反応だったのですか?
妻は「そうなのね、分かった」とあっさりとした反応でした(笑)。
社内の反応としては、一般的には、長期で育休を取ることに社内調整で相当苦労した話や、取得したいと思っても職場での理解を得られない男性の話を聞くこともあるのですが、僕の場合は育休取得を宣言してから取得まで、一度も逆風を感じませんでした。強いて言うなら、ママさんメンバーから「6ヶ月?子どもは離乳食が始まるぐらい(6ヶ月頃)からが大変なんだからね!」と言われて、逆にもっと長く取ることを勧められたことです(笑)。
ー 延長を提案されたんですね(笑)。育休取得の宣言から取得まで、どんな流れだったのでしょうか?
妊娠がわかったのが2020年1月だったのですが、ちょうどチームで年始の宣言をする機会があって、まだ安定期に入っていなかったので断言はせずとも「もし子どもができたら、長期で育休を取りたい」と伝えました。メンバーの反応は明確に覚えていないほど特別なリアクションはなく、「いいですね、ぜひ」という感じだったと思います。
その後、安定期を過ぎてから、正式に上長へ長期で育休取得したいと相談したのですが、では業務をどうやって引き継ぐかの話にすぐ移っていきました。育休に入る4〜5ヶ月前から引き継ぎをスタートし、出産予定日が9月下旬だったので、8月中にはすべて引き継ぎを終え、出産・育休に向けた準備をしました。
ー 本当に、スムーズに育休に入っていったんですね。
世の中に「そのままでいいんだよ」と思える空気を吹き込みたい
ー 無事に息子さんが誕生されて、育休に入られるわけですが、育休中の印象的だったエピソードについて教えてください
息子が生後1ヶ月ぐらいの頃、僕が一人でバスに乗って病院へ連れていくことがありました。出かける前は、移動中のバスや病院で泣いてしまって周りに迷惑をかけないかと不安を感じていました。実際にバスに乗ると、小さい赤ちゃんを連れている僕に対して、何の反応もなくスマホを見ている方がほとんどでした。その中でおばあちゃん世代の方が、何かを話しかけるまでもないのですがニコニコしながら温かい視線を送ってくれたんですね。また病院や薬局では、女性の看護師・スタッフさんたちが、不慣れそうな僕を気遣ってくれたのかいろいろ話題を振ってくれて、少しずつ不安な気持ちは和らいでいきました。たった半日の出来事ですが、女性に支えられた、救われた感覚がありました。目立ちはしませんが女性の立ち居振る舞いが社会の居心地よさを生んでいて、それはビジネスの世界でも同様に起きているのだなと気付かされました。
ー この経験を通じて、今後どんな人でありたいと考えていますか?
電車やお店の中で、子どもを連れているお父さんお母さんを見かけたら何かをするわけではないんですけど「それでいいよね」って空気感を送りたいなと思いました。必要であれば手を貸すこともしますが、積極的に何かをするというより、僕がもらったような温かい視線を送ることをしたいな、と。例えば、ベビーカーで場所を取ってしまうことも恐縮する必要なんてないですし、抱っこ紐で赤ちゃん抱えながらスマホを見ていたって何も悪いことではないと思うんです。変に恐縮したり、人の目を気にしたりせずに、そのままでいいんだよという気持ちでその場にいたいなと思います。
大好きな仕事ができることは、それだけで贅沢
ー 育休を取って、雨宮さんが今どんなことを感じていますか?
仕事が大好きだった僕が育休で仕事を離れて思うのは、好きな仕事をできるって、すごく贅沢なことなんだなって。日本社会で描かれる、外で仕事する男性を妻が支える構図が今でもあると思うのですが、家庭内のことをすべてやってくれているおかげで外で好きな仕事をできているんだと捉え直す機会になりました。
また妻の家事スキルや子どもへの包容力を見ていると、自分は家事育児が得意ではないなと痛感します。Will(やりたいこと)、Can(できること)、Must(やらなきゃいけないこと)で見たときに、今までWillとCanである仕事が圧倒的に多かった人生に、Mustの領域が広がりました。そして育休を通じて、そこは苦手領域でもあることを実感しました。どのように向き合っていくかは今後の課題であり、これからの人生の楽しみだとも思っています。
「両立することは考えない」仕事も育児も生活の一部
ー 育休から復帰後はどんなお仕事をされるんですか?
今までと同じ部署に戻りますが、コンサルタントから営業へ変更して復帰します。4月からの復帰に向けて、2月から部の全体ミーティングに出席したり、上長と相談したりする中で、コンサルタント経験がある人を営業にしたいとの要望を聞きました。僕としても同意でしたので「よろしくお願いします」と決まっていきました。またご縁があって育休中に別の事業会社で複業を始め、デジタルマーケティングの業務に触れていたので、当初不安視していた業界へのキャッチアップも問題ないですし、仕事ができることが楽しみです。
ー 育休から復帰後も育児は続きますね。今、どのようなことを考えていますか?
両立することを考えないのが自分なりの一つの結論です。両立というと、時間を区切って、どっちもうまくこなすイメージなのですが、もう日常の中に仕事も育児も入っている感覚なので、仕事をしながら、必要であればオムツ変えるし、ごはんも作るんだろうなと思っています。
ー 生きることと、働くことが継ぎ目なくありますね。最後に、記事を読んでいる方へ一言お願いします。
今回は男性育休にフォーカスを当てていますから便宜上「女性/男性」を多用してますが、フォーカスを当てなくていい世の中になったらいいなと思います。育休を取得するかどうかの主語は「女性/男性」ではなく「家族」ですし、育休はあくまでも手段の話で、大事なのは、自分が誰とどんな人生を送りたいかを探求することだと思うのです。
僕の場合は、たまたま身体を壊したのと妻の妊娠が重なったことがきっかけとなり、立ち止まって考える機会があったのですが、仕事をしていると忙しい日々の中で自分の人生について考える時間はどうしても後回しにしてしまいがちです。普段、何気なくしている選択でも、改めて自分が本当に選び取りたいものなのか、を考える人でありたいですね。
ー ありがとうございました!
インタビュー・ライティング:樗木 亜子
編集後記
「今の雨宮さんが育休スタート地点に戻ったらどんなことをしたいですか?」
「いろんな人と息子を育てたいと思っています。学生時代に行ったある講演で、ベトナムで孤児院を営む日本人の登壇者が発した『世界中のすべての大人が、世界中のすべての子どもを幸せにする義務がある』の言葉に感銘を受け涙が出ました。夫婦二人で我が子を幸せにするだけではなく、世の中を主語にして幸せにしたい。そして僕たちが幸せにする対象も、息子だけではなくすべての子どもでありたいと思っています。一人目の育児は分からないことだらけ、かつコロナ禍の外出自粛もあって家に閉じこもりっきりでした。今の自分でスタート地点に戻れてコロナ禍でなかったら、息子も私たちももっと外に出ていろんな人と交流したいと思いますね。」
雨宮さんの言葉は、どれも等身大で実直だったのが印象的でした。育休から戻った雨宮さんの心のうちにどんな変化があるのか、今から楽しみです。インタビュアーの私自身も二児の母で、子どもが生まれてから家族の形が変化し続けている感覚があります。雨宮さんの記事が誰かの考えるきっかけとなればうれいしいです!