2024年のDAOに関する大きなニュースとして、4月22日に施行される合同会社型DAOの解禁が挙げられます。金商法内閣府令の改正も加わり、これまでのDAO運営で課されていた制限も大きく緩和されることになります。
合同会社型DAOが解禁されることで従来に比べどうDAO運営が変わっていくのか、シェアハウスDAOや地方創生DAOの運営に携わっている立場から解説します。
廣渡 裕介
DAO事業部 副事業責任者 廣渡裕介
株式会社ガイアックスにて2022年にDAOに特化した事業部を創出し、シェアハウスDAOの組成を切り口にこれまで約30件のDAO組成運営支援を実施。現在は企業や自治体のDAOのコンサルティングサービスを展開中。
なお、大手企業や自治体のDAO組成支援をもとに開発した、DAOの立ち上げから自走までを1ツールで実現できるDAOXのトライアル版を無料公開しています。DAOを最短工数で確実に立ち上げたいご担当者様はぜひご活用ください。
合同会社型DAO (LLC型DAO)とは?
合同会社型DAO (LLC型DAO)とは、エンティティが不在だったこれまでのDAOに、法人格を付与することでより信頼性を担保し、活動の幅を広げることができるようになった新しい形のDAOのことをいいます。また、合法的に配当ができるようになったことも大きな革新です。
これまでのDAOは組織として実体がなかった為、サーバーの契約や活動全般におけるツールの契約などをDAO自体で実施することができず、代表者が請け負う必要がありました。今後は合同会社型DAOとして、法人契約ができるようになり、DAOメンバー個人の負担が減るようになります。
法人格の付与はこれで大きなニュースですが、今回の金商法内閣府令の改正にも目を向ける必要があります。
金商法内閣府令の改正
今回の合同会社型DAOの施工に伴って、知っておきたいポイントは金商法内閣府令の改正です。
2024年2月1日に金融庁から「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)等の公表について」が発表されました。
内容を要約すると、業登録不要でトークンを用いた資金調達が可能になり、且つ、金銭的な収益分配ができるようになりました。
これまでは、DAOメンバーに付与するエクイティートークンを発行しようとした場合は一項有価証券に該当していた為、自己募集に係る業規制や開示規制がありました。本改正により、二項有価証券に該当する形態が整理されたため、こういった規制に抑制されず活動ができるようになりました。
ただ、後述しますが、DAOに参加する社員の種類によって規制が発生するので注意が必要です。
合同会社型DAOの特徴
金商法内閣府令の改正を伴った合同会社型DAOの特徴を解説します。
まず、DAOメンバーを業務執行社員とその他の社員に2分化し、それぞれに社員権トークンを付与します。
業務執行社員はいわゆる「活発に活動するメンバー」、その他の社員は「見守るメンバー」と考えると分類しやすいです。それぞれの社員は活動範囲や収益分配の規制が異なります。
合同会社型DAOにおける業務執行社員
- 付与されるトークンの種類:業務執行社員権トークン
- 活動範囲:出資、意思決定への参画*、業務の全部または一部の従事
- 想定される役割:初期の旗振り役、コミュニティマネージャー、など
- 収益の得方:出資額を超える収益分配が可能、トークンの2次流通によるキャピタルゲイン(業務執行社員以外への譲渡は不可)
* 基本的には社員による投票を尊重し、DAOが違法行為や公的良俗に反することを行おうとしたときのストッパーとして拒否権を発動する意味合いを持ちます。
合同会社型DAOにおけるその他の社員
- 付与されるトークンの種類:社員権トークン
- 活動範囲:出資、意思決定を行う投票への参加、コミュニティーへの貢献活動
- 想定される役割:出資、議案〜投票、DAO内タスクの遂行
- 収益の得方:出資額を限度として収益分配が可能、トークンの2次流通によるキャピタルゲイン
※引用:衆議院議員 塩崎彰久 「合同会社型DAO解禁へ。世界も注目する新たなweb3ビジネスのフロンティア」
リワードトークンに相応する「別トークン」
また、上記の社員権トークン以外に「別トークン」の発行が可能です。これまでで言う「リワードトークン」に該当するものです。貢献の遂行に対する報酬として機能し、ユーティリティやガバナンス権をもたせることが可能です。
これまでは参加メンバーを証明するNFTにユーティリティを付与していたDAOが多くありましたが、今後はこの別トークンに機能を付与することになるかと思います。
シェアハウスDAOでいうと、社員権NFT購入時に宿泊券やコワーキング利用券をインクルードさせた別トークンを自動付与させることになります。また、内見対応や掃除といったタスクを遂行することで別トークンが付与されるという運用になります。
合同会社型DAOの構成と参加方法
合同会社型DAOのメンバーの構成をまとめると以下の通りになります。
- 業務執行社員
- その他の社員
- 社員ではないメンバー
業務執行社員とその他の社員はそれぞれ社員権トークンを取得し、DAOに参画することができます。
社員ではないメンバーは、DAOから発行される「別トークン」を購入、もしくは貢献活動を通じて取得し、DAOに参画することができます。
(厳密にはトークンを保有しなくても、利用規約への同意等を経てDAOへに参画は可能です。)
DAOの初期フェーズでは創業メンバーが業務執行社員となり初期立ち上げをしていき、社員ではないメンバーとタスクを分散しながらプロジェクトを進めていく。そして、その他の社員から資金調達を実施しながらDAOを大きくしていく流れが想定されます。
合同会社型DAOと従来のDAOの違い
合同会社型DAOの構成については理解いただけたかと思うので、一歩下がった目線で、合同会社型DAOと従来の差異を以下の表にまとめました。
この表から分かる通り、従来のDAOの最大のメリットはルールがないことの自由度であり、反面、エンティティが確立していない為、組織としての信頼の薄さがデメリットでした。
シェアハウスDAOとして立ち上げたRooptDAOも、物件の登記手続き回りに法人が必要だったため、DAOメンバーの一員として株式会社巻組が参加していました。
また、自律分散型組織において非常に重要なインセンティブ設計にも大きな変化が望めます。RooptDAOでは貢献の対価を宿泊という体験価値にしていましたが、今後は金銭的な収益分配を取り入れることができ、より分かりやすいインセンティブ設計を組むことができます。
合同会社型DAOの事例
合同会社型DAOの解禁に伴い、すでにいくつかの事例が登場しています。ここでは、教育分野と不動産分野における2つの事例を紹介します。
iU DAO:大学初の合同会社型DAO
iU(情報経営イノベーション専門職大学)の在学生と第1期卒業生が中心となって立ち上げたiU DAOは、大学初の合同会社型DAOとして注目を集めています。
この取り組みの面白いところは、従来の大学運営とは一線を画した学生主体のアプローチにあります。通常、大学の意思決定は理事会や教授会など、トップダウンによってなされますが、iU DAOでは学生自身が大学運営に関与できるのです。
例えば、カリキュラムの改善案やキャンパス設備の充実など、学生目線での提案をDAOを通じて行い、投票によって採択するといったことが可能になります。さらに、大学への貢献活動に対してインセンティブが付与されるため、学生のモチベーション向上にもつながることが期待されます。
まさに「イノベーターを育成する」というiUの理念を体現するような取り組みといえるでしょう。今後、他の大学にも同様の動きが広がっていくかもしれません。
Roopt DAO:より自律的なシェアハウス運営へ
次に、すでに言葉としては紹介しているRoopt DAOの事例です。こちらは日本初のDAO型シェアハウスとして2022年にスタートし、このたび合同会社型DAOへの移行を決定しました。
Roopt DAOの特徴は、入居者自身がシェアハウスの運営に積極的に関わることができる点です。例えば、共用スペースの使い方や新しい設備の導入など、シェアハウスをより魅力的にするためのアイデアをDAO内で議論し、投票で決定します。
さらに面白いのは、入居者の貢献度に応じてリワードトークンが付与される仕組みです。掃除や修繕、イベント企画など、シェアハウスの運営に貢献すればするほど、トークンが貯まっていくわけです。
この取り組みにより、Roopt DAOは高い入居率と運営コストの低減を実現しています。
実は、Roopt DAOの試みは単なるシェアハウス運営の改善にとどまらず、日本の大きな社会問題である空き家対策の新たな切り札としても期待されています。DAOの仕組みを活用することで、地域コミュニティを巻き込んだ空き家活用の可能性が広がるかもしれません。
合同会社型DAOの懸念点・注意事項
ここまで合同会社型DAOがいかに使い勝手がよいかを述べましたが、もちろん気をつける点は多数あります。
登記について
DAOとはいえ、合同会社なので、業務執行社員になるには登記が必要です。
その他の社員でも氏名と住所を定款または社員名簿に記帳しなければいけません。社員名簿は一般公開しなくて良いので、個人情報が一般に晒せることは無いのは安心ですが、ハードルの高さを感じます。
また、他の企業で社員として属している場合、合同会社型DAOへの参加は副業にあたるので、勤務先によっては副業申請が必要になる場合があります。
さらに、国によっては法律が異なるので海外在住の方を社員にするのは難しい可能性が高いです。合同会社型DAO限った話ではありませんが、グローバルで不特定多数が参加できることが醍醐味であるDAOの良さが活かせない状態であることは確かです。
トークン勧誘の注意点
業務執行社員とその他の社員では勧誘の制限が大きく異なります。
業務執行社員の公募は可能ですが、その他の社員は公募を行ってはいけません。
収益分配について
業務執行社員は出資額以上の収益分配が可能ですが、「期末に出資額の〇〇%を付与します」的なノリで分配はできません。
あくまでも「トークンを業務執行社員以外に譲渡できない場合は出資額を超える収益分配が可能」ということなので、合同会社型DAOで社員権トークンを買い取る必要があります。
このプロセスにおいてはまだシームレスな仕組みが見つかっていません。
この様に、今回の改正ですべてが上手くいくことは難しいですが、国が一つ一つDAO運営の障害を緩和する取り組みをしてくれていることは大きな進捗です。
一つでも多くの合同会社型DAOの組成に取り組み、運営をしながら発生する課題に取り組みブラッシュアップすることが大切です。
合同会社型DAOの想定されるユースケース
2022年より運営されているRooptDAOのように、シェアハウスの運営を行うDAOは合同会社型DAO化に親和性が高いです。
RooptDAOは、古民家をDAOメンバーで住みやすい物件に仕上げて物件の価値向上を目指すだけでなく、住民でありオーナーであるという新たなユーザー体験を基軸にコミュニティ全体でシェアハウスを運営するというコンセプトです。
立ち上げ当初からも、①実際に物件に出向いてDIYをしたり、自分自身が滞在して内見対応や物件の管理といったタスクをこなすメンバーと、②その様子をDiscord上で見守るメンバーで2極化していました。
また、③タスクを沢山遂行し溜まったリワードトークンを宿泊券NFTに換金するメンバーも多数いました。
すでにRooptDAOのメンバー構成と役割が、合同会社型DAOでいう、①業務執行社員、②その他の社員、③社員ではないメンバーと一致しているのがわかります。
実際にDAO協会キックオフミーティングでも、「合同会社_物件保有DAO」の構想が言及されていました。法人格をもつことにより、金融機関等からの融資を受けることができるようになるのは不動産事業において非常にインパクトのあるポイントです。
RooptDAOの立ち上げからここまで運営にも携わっていた身としては、いかに収益分配ができるDAOになるか。がDAOの持続性の最重要項目と感じます。
納得のいく収益分配を可能にする為には、外部からの売上が重要になってくるので、より高い利回りで物件を運用しつつ、ランニングコストをDAOメンバーの貢献により軽減していくことがポイントです。
4月8日に、ブロックチェーン投票でRooptDAOを合同会社型DAO化させることが決まったので、試行錯誤は続きますが新たな試みに挑戦していくので、都度情報アップデートをしていきます。
» シェアハウスDAOの合同会社型DAO化に向けて_vol.1
追記:「株式会社型DAO」として、PlanetDAOが登場しました
PlanetDAOは、日本の神社や仏閣を含む歴史的建造物を宿泊施設として再生し、その運営を通して持続的な保存を図るプロジェクトです。
国内外の投資家から募金を募り、出資者は収益の獲得とともに事業推進の意思決定にも参加できる機会が得られます。
PlanetDAOは、投資家に対する出資額とリターンの観点から株式会社を法人格として採用した日本における新型のDAOで、現法上の限界から合同会社型DAOではなく株式会社型DAOを採用しています。
このような最先端のDAO運用をガイアックスでは支援していますので、DAOコンサルのお問い合わせからご相談いただければ情報提供可能です。
その他、200を超える国内DAO事例もまとめています
2024年現在、国内でも急速にDAOの組成・活用が広がってきており、この他にもたくさんのDAO活用事例がございます。
そこで、当記事をまとめているガイアックスでは、国内200のDAO / NFTコミュニティを網羅した「DAOカオスマップ」を作成。
各領域ごとにどのようにDAOが活用されているのか、事例と動向を集計・分析しました。
上記はあくまでDAOのアイコンをまとめたマップです。実際の各領域のDAO動向は「DAOカオスマップ」のページにて一部説明しています。※資料請求いただけるとフル解説をご覧いただけます。
さらには、「DAOポータル」にて、これからDAOを立ち上げるための領域ごとのDAO検索ができるようにしていますので、活用いただけますと幸いです。