» Gaiax スタートアップカフェ
プロダクト開発とは?ベンチャーエンジニア目線からの考察
廣渡:これまで多数のプロダクト開発を経験し、現在スタートアップスタジオで開発担当をしている峯さんにベンチャーやスタートアップのプロダクト開発についてお話しを伺います。よろしくお願いします。
峯:よろしくお願いします。
峯 荒夢
株式会社ガイアックス 技術開発部マネージャー
技術開発部で新規技術開発チームさきがけを率い、個人としてはシェアリングエコノミーを支える最も重要な技術としてブロックチェーンに注力。中間者搾取が排除され、フェアで不正の無い世の中を実現できる技術と信じ取り組んでいる。ブロックチェーンの国際標準化を検討するTC307/ISO国内検討委員にも名を連ねている。
廣渡:早速ですがプロダクト開発とシステム開発の違い明確にしたいです。どういった違いがあるのでしょうか?
峯:はい、プロダクト開発は主にある目的を達成するために紆余曲折しながら進んでいくもので、システム開発は決まっている要件に沿って形にしていくことです。
プロダクト開発 | 目的に沿って適切なものを開発 |
システム開発 | 決まっている要件を形にする開発 |
廣渡:なるほどですね。システム開発は「制作物、ゴールが決まっている」のに対して、プロダクト開発は「要件に必要なものを最低限のリソースでクリアにしていく」という手段の役割が近いのですね。
峯:そうですね、これから事業を進めていくベンチャーやスタートアップはプロダクト開発に当てはまると思ってもらって大丈夫です。
廣渡:仮説検証においてプロダクト開発が必要になる場合が多いですよね。仮説検証については以下の記事に詳しく紹介しています。
【中学生でもわかる仮説検証の意味!実例をもとに優しく解説】
プロダクト開発で最も重要な事は「不完璧」
廣渡:早速ですがプロダクト開発を実施する上で重要なことを教えていただきたいです。
峯:はい、それは一言で言うと「できるだけつくらない」ことです。
廣渡:開発するのに「作ってはいけない」のですか?
峯:人やもの、お金といったリソースが限られた中で、事業検証を進めないといけないスタートアップでは、プロダクト開発に大きなお金をかけられません。なので、検証に本当にプロダクトが必要な部分だけ開発して、プロダクトを作り込みすぎないことが重要になります。
廣渡:確かにまだ成功するか分からない状態で綺麗に仕上げて失敗するのはかなりのダメージですね。具体的にはどれだけミニマルにつくるのが良いのでしょうか?
峯:まずは既存のツールを使って代替できないか精査します。Webhookなどの連携ツールやフォームツール、それぞれのツールを組み合わせることで大体の問題は最小のコストで解決されます。
廣渡:それこそリーンに事業を進めるポリシーですね。リーン・スタートアップについては以下の記事で詳しく紹介しています。
【リーンスタートアップが5分でわかる!事例を元に優しく解説】
廣渡:実際にプロダクトを開発した際の事例はありますか?
峯:具体例を上げると、2020年の新型コロナが流行した際につくりあげたオンライン飲み会サービス「みんのみ」がその一つです。最小限の機能だけを組み込んだプロダクトを2,3日でノーコードを活用して開発しました。飲み会に参加するユーザーを集めるプラットフォームだけ用意して、本質的なチャットはzoomやskype、Google meetsなど外部サービスを活用しました。
廣渡:確かに一昔前とかだと独自のチャットツールを開発する文化がありました。今は世に溢れているツールをうまく組み合わせ活用して最低限の労力で形にすることができるのですね。
不完全だからこそニーズが明確にわかる
廣渡:一つ疑問に思うのが、不完全の状態でユーザーに使わせてしまうと「UIが悪いから」「使い勝手が悪いから」という、サービス自体は価値があるのにユーザビリティの問題でユーザーが手を出してくれないという事態にはなりませんか?
峯:そこもある意味テストですよね。本当に価値のあるサービスであれば使い勝手がちょっと悪くてもユーザーはつかってくれます。使いにくいのに使ってくれるということはそのサービスの価値の裏付けになります。そういったユーザーをいち早く見つけ、ヒアリングを行うことが大切です。
廣渡:なるほどですね、完璧に仕上げた状態じゃないとテストする意味がないと思いがちでした。不完全の状態でも使ってくれるユーザーがいるかをテストする重要さがわかりました。
峯: わかりやすいイメージでいうと「穴の空いたバケツ」をユーザーに使ってもらう感じです。
廣渡:穴の空いたバケツですか?
峯:はい、まずは60%程度で最低限の機能をつけたプロダクトを使ってもらいユーザーヒアリングを行いそのプロダクトの穴をみつけます。後はその穴を埋めていく作業を繰り返します。ユーザーによっては思いつく穴(負に感じる点)は異なるのでデータ収集が重要になってきます。
廣渡:その穴を埋める作業を行ってから広告やPRをして集客するという流れでしょうか。
峯:はい、その通りです。以前制作した「みんのみ」では、「自分が参加する予定の飲み会がどこに表示されているかわからない」といった様な製作者側からしたら気づきにくい点をユーザーから聞き出すことができました。
ユーザーヒアリングのポイント・コツ
廣渡:プロダクト開発にユーザーヒアリングはセットという観点を深堀りして、すばり効果的なユーザーヒアリング方法を教えていただきたいです。
峯:はい、ガイアックス・スタートアップスタジオでは客観的な評価を得るために「NPS」という指標を活用しています。NPSを簡単に説明すると、「自分の満足度」より「他人に勧めるか」を数値化することです。
廣渡:最近のベンチャー企業がこぞって活用している数値ですね、AppleもNPS数値を徹底しています。NPSの求め方や本質的な効果については以下の記事で詳しく解説しています。
【NPSの意味とは?NPS活用で急成長中スタートアップを紹介!】
峯:新規ユーザーの獲得を狙うビジネスモデルの場合、NPSは活用するべきですね。
廣渡:ユーザーがどうやったらアンケートに協力してくれるのか知りたいです。やっぱりAmazonギフト券などを配った方がよいのでしょうか?
峯:いえ、先に報酬があるのを知らせるのは良くないです。理由としては
金銭が関係することで余計なバイアスがかかる
金銭目当てで一度しかプロダクトを使わない「逃げ切りユーザー」のデータを集めてしまう。
の2点があげられます。
廣渡:なるほどですね、焦って多くのデータを集めるのではなくプロダクトやサービスのことを真剣に考えて意見をくれるユーザーを集めることが大事なのですね。
峯:はい、たしかにデータ収集は大変な作業なので理想はプロダクト開発前からヒアリングできるユーザーを捕まえておくことです。
廣渡:勉強になります!
良いプロダクトの条件は3つ
廣渡:プロダクト開発における様々な工夫を教えていただきましたが、総体的にみて良いプロダクトとはどんなものですか?
峯:大きく分類すると以下の3つです。
- ユーザーのテンションを上げるプロダクト
- 説明なしで使えるプロダクト
- 終わった後に感動を残すプロダクト
それぞれ簡単に説明します。
1.ユーザーのテンションを上げるプロダクト
峯:まずテンションが上がるプロダクトとは、「これを待ってたよ!」と思わせられるかどうかです。例えば、テレビのリモコンは絶対にユーザーの心に「これを待ってた!」と言わせたはずです。いちいちテレビの電源を押しに動いていた「負」を一瞬にして解決しました。
大規模な例えでしたが、どんな小さなサービスであれ、人の心に訴えかけることはできます。
廣渡:確かに僕の身の周りでいうと「文字数カウント」というブログや原稿の文字数を一瞬で表示してくれるマイナーなツールが仕事に必須です。機能は大したことはありませんが、ニーズに対応しています。
2.説明なしで使えるプロダクト
峯:これは言うまでもありませんが、今の時代説明書が必要な製品・サービスはイケてません。iPhoneも説明書が不要な携帯電話として有名になりました。どんなサービスも同じでユーザーがサービスを立ち上げてからログアウトするまで迷いがない作りが求めれます。
その点「機能は最小限で抑える」を徹底することが重要です。
3.終わった後に感動を残すプロダクト
峯:「やっぱこれだったわ!」と印象を残すプロダクトをつくるために以下の要素をクリアしておかなければいけません。
・使用前の期待通り
・もしくは期待を上回る
この「ユーザーの期待に答える」については訴求にポイントがあります。
それは「誇張してサービスの紹介をしないこと」です。
ユーザーに使ってもらいたい気持ちが前のめりになってあれもこれもと訴求を追加してしまいがちですが、あえてユーザーの期待を80%くらいにコントロールして、事後その期待値を超える感動を与えるという戦略もあります。
廣渡:なるほど、ユーザーを流入させる際のマーケティングにも絡んでくるのですね。まさかここまで奥が深いものとは思っていませんでした。一般の人でもこういったアドバイスは受けることができるのでしょうか?
峯:はい、ガイアックススタートアップスタジオでは気軽に事業の相談ができる「STARTUP CAFE」を実施しています。年齢や事業のモデル関係なく気軽にオンライン相談できます。
廣渡:これから起業を考えている人には最適な場ですね!また何か相談させてください。本日はありがとうございました!
峯:ありがとうございました!