ですが、新卒メンバーが一人前の事業家になるまでの過程には、表では語られないいくつもの苦悩や葛藤が待ち受けています。
その実態に迫るべく、今回は新卒3年目で平日連泊に特化したホテル予約サービス事業「Otell」の事業責任者を務める富士茜音(ふじ あかね)さんにお話を伺いました。
「想い」と「ビジネス」が両立できずに何度も事業立ち上げに失敗した葛藤や、自分の想いをあえて脇に置いて事業に向き合う独自のキャリア観など、富士さんの“事業家になるまでのリアル”に迫ります。
富士 茜音
Otell事業責任者
20卒ガイアックス入社。現在は仕事環境が整ったワーケーションにぴったりのホテル予約サイト『Otell(オーテル)』の事業責任者。ガイアックス代表の上田が解説するYouTube「経営カレッジ」に出演。大学在学中は、インドでボランティア活動や学生団体にて日本人学生向けに海外インターンシップを企画/運営などをしていた。
理想の事業家への1歩目は、「自分のやりたい」をあえて脇に置くことから
現在、富士さんはガイアックスでどのようなお仕事をされているのでしょうか?
「Otell」という平日連泊に特化したホテル予約サイトの事業責任者をしています。
郊外の温泉旅館や大型の宿泊施設における客室の稼働率が30%ほどであることから、平日の空いている部屋を活用して、土日に集中する宿泊需要の分散を考える事業です。
具体的な仕事内容としては、営業もすれば広告も回すし、クリエイティブもつくればユーザーヒアリングも行うし……と、事業責任者として事業推進に関わることすべてに幅広く取り組んでいます。
以前、ビジネスを通じて社会課題を解決できる人材になれるよう、事業づくりの力を身につけたくてガイアックスに入社されたとお聞きしました。
その後、入社から半年で事業責任者になったとのことですが、Otellの事業領域は富士さんがもともと社会課題として意識していた領域だったのでしょうか?
いえ、実はあえて、「自分のやりたいこと」から事業をスタートしなかったんです。
自分の意志や情熱を起点にキャリアを重ねていく若手メンバーも多いのですが、私は逆で。
社会人になって最初の数年間は、「“自分のやりたいこと”の前に、まずは事業づくりの力を身につける修行期間にあてよう」と、自分の使命や感情は一旦脇に置いて動き続けてきました。
……って、これ、このまま話しても大丈夫ですかね?
「使命を脇に置いて」とか、ガイアックスらしくないですかね?
事業家を目指す道のりは人によって違うので、ぜひこのまま聞かせてください。
なぜ「自分のやりたいこと」から事業をスタートしなかったのでしょうか?
きっかけとして、学生時代やインターン生時代に「想い」と「ビジネス」が両立する事業をつくれなかった経験があります。
ガイアックスの選考フローでは、「ビジネスプランコンテストに出てみないか」とお誘いを受けて新規事業を考え、その後にインターン生としてその事業の立ち上げに取り組んでいました。その後、入社してから配属された部署では、新規事業立ち上げを3ヶ月に1つのペースでしていたので、入社から半年で2つの事業立ち上げに挑戦していました。
でも、結果として、どの事業もビジネスにはならなかったんです。
入社後に立ち上げた事業も、最初は「社会のために」と思っていたのですが、ビジネスにならなくてピボットすればするほど、やりたいことから離れていってしまったことがあって。
「お金は生まれるかもしれないけれど、どうして私がやるの?」と途中で辛くなり、「すみません、やめたいです」と伝えたこともありました。
事業立ち上げから離れるはずが、気づけば新規事業の責任者に
その事業はすぐにやめられたのでしょうか?
はい、スパッと事業検証をストップできました。
上司も「そもそも誰もやれとは言っていない」というスタンスで、むしろ個人にオーナーシップが強く求められていたので、正確には「やめさせてください」と相談もせずに事後報告のような形で事業をストップしましたね。
ある程度のお金や時間を投資しているので、普通の企業だったらやめられないと思うのですが、個人の意志を尊重して途中でもストップできるカルチャーがガイアックスのすごいところだなと、いま振り返っても思います。やめた後に周りから後ろ指をさされることもありませんでした。
この経験から、「やっぱり1回修行したいな」という気持ちが生まれ、「社内にはほかにどんな事業があるんだろう」と別の事業部で修行することを考えはじめました。
就活時に参加した会社説明の内容から、「新規事業を立ち上げてみてダメだったとしても、ガイアックスならほかの事業部で修行し直すこともできる環境だから、やってみたいなら先延ばしにせずに新規事業をやってみるのもアリかな」と考えていたので、「よし、ではその通りに動いてみよう!」と。
なぜ修行に出るはずだったところから、新規事業であるOtellの立ち上げに携わることになったのでしょうか?
「社長室の千葉さんがワーケーション領域で何かやりたいらしい」という噂を聞いて、お話を聞きに行ったんです。
まだ具体的なビジネス構想がない段階だったのですが、興味を持ったメンバーで集まってビジネスアイディアを出していくうちに「平日連泊」という切り口が出てきて。
そのときに、「このアイディアいいな。1人じゃなくてチームで事業をつくるっていいな」と心が傾いてきたんです。
ちょうどその間に、自分の環境に対する見方も変わりはじめていて。
社長の上田さんにもすぐに話を聞けるし、千葉さんは社長室にいる方だから社内情報にもアクセスしやすい。そうしたことを考えるうちに、「いまも恵まれた環境で修行をしていると言えるのかも」と思うようになっていきました。
その後、事業検証をはじめたところ、利用者からの反応がこれまで取り組んでいた新規事業とは異なることに気づき、、「これは事業を本格的に立ち上げられるチャンスなのでは」と、事業づくりにコミットしはじめたんです。
その結果、サービスローンチのタイミングで、「自分が最もコミットしているし、今後もしていくだろう」という想いから、気づけば事業責任者の立場に自ら手を挙げていました。
70人超のヒアリングで見えた、事業が自分ごとになる“着火点”
事業責任者になってみてからの日々はいかがでしたか?
冒頭でお話したように、“自分のやりたい”をベースに事業をスタートしていなかったので、最初の1年間は「私の前を走る事業になんとか追いつこう」という毎日でした。
コロナ禍で需要が高まっていたからこそ、目の前の利用者の期待に追いつきつつ、コロナ禍を抜けた先のビジョンを自分で描かなければいけない状態が1番大変でしたね。
ただ、事業を自分ごと化しないことには、当然ながらビジョンは描けなくて。
そもそもの働くモチベーションとしても、「事業の自分ごと化」は私にとって大切なことだったので、ワーケーション自体に個人的な原体験として強い課題感を持っていなかったからこそ、最初は「どこから自分ごと化をしていけば……」と、もがきにもがいていました。
その壁はどう乗り越えていきましたか?
ユーザーヒアリングを通じて「自分しか知らない社会の事実」を見つけていくことで、事業が自分ごとになっていきました。
事業初期のころに、4ヶ月間で70名超にヒアリングをしたのですが、そうすると「世のなかにはこんな課題があるんだ」というものに出くわすんです。
1人の時間を何十年も持っていない主婦の方から、「子どもが大きくなったからOtellを使ってみたが、家事をするために毎日帰らなければならなくなるのかなと不安になっていた。でも、問題なく1週間ワーケーションに行けて、本当に嬉しかった」とか。
いまお話した課題は、Otellの事業で解決したいど真ん中の課題ではありませんが、「社会にはこんな課題があるんだ」という事実が見えると、心が燃えてくることに気づいて。
「どうしてこの課題が起きるんだろう」と、そのさきの社会構造までどうにかしたくなってくるというか。
このような事実を見つけていくなかで、「自分のやりたいこと」よりも「社会が困っていること」をやりたいという自分の“動機”が見つかってきて、そこから事業が自分ごとになっていきました。
「事業で解決したい課題」と「自分の心が燃える課題」にズレがあったとしても、事業づくりに没頭し続けられるのはなぜなのでしょうか?
いまやっていることが「社会課題をビジネスで解決できる事業家になる」という目標につながっていると意識できているからだと思います。
いまは事業家として足りない部分を強化する時期だから、世のなかで過去にいろんな経験をしてきた人の体験をなぞるスタンスで動いている意識が常にあって。
とはいえ、気持ちが一杯いっぱいになる時期も何度かありました。
そういうモードになると、社内コーチング制度で伴走していただいているブランド&カルチャー推進室の荒井さんから「この修行が永遠に続くわけじゃないんだよ」と伝えられるんですよね。それを聞くと、「たしかに!」と感情が正しい位置に戻るので、また頑張れる。こうした形で、周囲からの協力を得ながら、事業に再度向き合うということを繰り返してきました。
「事業家としていま何が足りないのか」を知るために、まず事業家になってみる
現在も修行中とのことですが、学生時代や入社直後と比べて「事業家として成長したな」と感じる部分があれば教えてください。
事業立ち上げのプロセスを自分で回せるようになったことは大きな成長ですね。
何を検証すべきかを考えて、実際に検証して結果を得て、また新しい問いをつくって……と繰り返しながら、社会に事業を実装する感覚を体得できました。
入社後はもちろん、インターン生時代から事業づくりを実践できる機会が何度もあったので、その経験がいまに活きているなと感じています。
あとは、「事業づくりのスピード感」が身についたことでしょうか。
学生時代だと何か1つのモノをつくるのに半年間かかるのが普通でしたが、入社後は3ヶ月に1事業を立ち上げていたので「事業は必要最低限でスピーディーにつくるもの」という考えに変わりましたね。先輩のなかには構想から2週間でサービスをローンチする人もいたので、周りのメンバーのスピード感が“自分の当たり前”を変えてくれたようにも思います。
ちなみに、富士さんの「事業家としての修行」が終わるとしたら、それはどのようなときなのでしょうか?
うーん……「社会をつくっている感覚」を得られたときですかね。
その感覚は、「ニーズが顕在化していないから、本当に求められているかがその時はまだわからない。けれども、実は潜在的にみんなが求めているものをつくれた感覚」というか。
「自分のやりたいこと」と「未来の社会が求めているもの」が一致したタイミングで、自分のやりたいことができたら幸せだなと思いながら、いまも事業と日々格闘しています。
最後に、「将来的に事業家になりたい」と考えている事業家志望の方へメッセージをお願いします。
ガイアックスは、「甘える先はない」「けれども心理的安全性は高い」という不思議な環境です。
想像よりもずっと自己責任な会社なので、「これを勉強したいです」と伝えても、「どうぞ、自分で勉強してください」と言われるような世界。
でも、それがガイアックスならではの「人を強くする」環境なんですよね。
一方で、社内にはガイアックスを好きな人が多いので、「ガイアックスの人なら助けるよ」と多くの人に応援してもらえるんです。
同年代も多いので、同じことで悩んでいる人もいるし、言葉を多く交わさなくても「同期が頑張っているなら私も頑張ろう」って思える。
この両側面がある環境だからこそ、私は「ガイアックスに入って本当によかったな」と心から感じています。
「いつか事業家になりたい」と考えているなら、ぜひ一度ここで事業家経験をしてみて、「いま自分に何が足りないか」を見てみてはいかがでしょうか。
もしかするとこの道が、理想とする事業家により早く近づける近道になるかもしれません。
取材・執筆・編集:ヤマグチタツヤ