「DAO(自律分散型組織)を作りたいけど、どこから始めたらいいの?」「DAOの始め方って、従来のコミュニティづくりとどう違うの?」
こんな疑問をお持ちの担当者さまは多いはず。2022〜23年ごろから日本でも大手企業や地方自治体がDAOを導入し始め、国内だけでもガイアックスの調査で200を超えるDAO/web3コミュニティが確認されました。
しかし、DAOの作り方を誤れば、せっかくの取り組みも空回りしてしまいます。
この記事では、DAOの作り方(始め方)について、美しい村DAOで鳥取県智頭町と静岡県松崎町、DAOガイドラインの策定で群馬県を、採用DAOの構築で三井住友海上保険株式会社を支援してきたガイアックスが解説します。
なお、DAOの導入ご検討されているご担当者の方で、「DAOの具体的な構築方法」や「既存の組織構造とDAOをどう融合させるべきか」、「法的リスクや運用面での課題にどう対処するか」など不安な点はないでしょうか。弊社では、大手企業や自治体のDAO構築支援をもとにしたDAOコンサルティングを行っています。まずは資料でサービス内容をご確認いただければと思います。
DAOを始める前に:DAOの定義を確認
DAOは「Decentralized Autonomous Organization」の略で、日本語では「自律分散型組織」と呼ばれます。株式会社をはじめとする従来の組織構造とは異なり、参加者全員が意思決定プロセスに関われる新しい組織形態です。特定の経営者や役員からトップダウンで命令が降るのではなく、参加メンバーの投票で組織の意思決定がなされます。
また、組織の情報が全参加者に公開されること、雇用にとらわれず、誰でも参加できること、報酬が現金ではなく独自のトークンで支給されることなどが従来の組織との違いです。
DAOは本来、ブロックチェーンとスマートコントラクトを基盤とする完全自律型の組織として構想されましたが、特に人間の稼働を前提としているコミュニティ的なDAOでは、まず組織を立ち上げ、自律的に回ることを確認してからオンチェーンへの移行を目指すケースが多いです。
より詳しい定義や背景については、「DAOとは」の記事をご覧ください。
DAOを構築する流れ
ここからは、DAOを開始するための流れを見ていきましょう。全体像を解説します。
大きく分けると、下記の図のような4つのフェーズを意識してもらえるとよいです。
- リサーチ段階(1〜2ヶ月目):どんなDAOをつくるかイメージ
- 企画段階(2〜3ヶ月目):具体的にDAOがどう動くか整理
- 構築段階(3〜4ヶ月目):DAOのシステムを実装する
- 運用・改善段階(5ヶ月目移行):重要指標を分析し、コミュニティを改善する
このように、「DAOを始めたい」と思ってもすぐに始められるわけではなく、失敗しないための準備期間があることを認識いただけたかと思います。
そして、コミュニティが動き始めたら、「参加者のエンゲージメントをいかに高められるか」が次のポイントです。
要点をもう少し詳しく解説します。
DAOの作り方(企画編)
初期のリサーチを終えたら、DAOの企画段階に入っていきます。
企画段階では、まずは「検討すべき項目に回答できるか」チェックいただき、答えを準備できるようにしていただけるとスムーズです。
図の文字が小さいかもしれないので、テキストでもまとめます。
確認ポイント1:DAOのビジョンはあるか
DAOを立ち上げる目的と、参加者に提供する価値を明確に定義します。起業して会社を立ち上げる時に”ただ会社の箱だけつくっても意味がない”のと同じです。
- 何のためにDAOをつくるのか
- どんな課題を解決するのか
- DAO全体で目指すゴールは何か
- なぜ今始めるのか
DAOの方向性と、メンバー各々のコミットメントにも影響する重要な点となります。
確認ポイント2:活動計画はあるか
次に、DAOの立ち上げから自走までの活動計画を明確にします。
これを設定しておかないと、各フェーズで正しく活動を進められているかプロジェクトの進捗管理ができません。
- 企画構想フェーズ
- 構築PoCフェーズ
- 自走フェーズ
それぞれで、どんなことをしていく予定か設定しましょう。
確認ポイント3:トークンの種類と役割は明確か
DAOで使用するトークンの種類とその役割を定義します。これがDAOにおける経済システムの基盤となります。
- ガバナンストークン:投票権や意思決定への参加権を付与するトークン
- リワードトークン:貢献に対する報酬や、DAO内での取引に使用するトークン
それぞれのトークンの発行方法や分配方法、価値の裏付けを具体的に設計することが重要です。
確認ポイント4:トークン保有によるインセンティブ
トークン保有者に対するインセンティブを明確にするために確認します。
DAOは自律的であるため、メンバーのインセンティブが弱いと大きなコミットメントを引き出すのが期待しづらくなります。
- リワードトークンの使い道:DAO内でのサービスに利用できる、他のトークンとの交換など
- ガバナンストークンの使い道:重要な意思決定への投票権、法定通貨との交換など
確認ポイント5:ユーザー設定
どんな参加者がコアなメンバーとなるのか。また、なぜそのメンバーがDAOビジョンに向かう上でふさわしいのかを確認します。
確認ポイント6:ツールの選定
DAOの運営に必要な各種ツールを選定します。
- コミュニケーション:DiscordやSlackなどのチャットツール
- 意思決定(投票):Snapshotなどの投票ツール
- タスクの分配:TrelloやNotion、GitHubなどのプロジェクト管理ツール
ホワイトペーパーへの落とし込み
ここまでの6つのポイントを整理できたら、ホワイトペーパーに落とし込みます。
DAOにおいて、「ホワイトペーパー」とはDAOの企画兼募集要項で、プロジェクトの目的やトークンエコノミーの設計、使用するツールやロードバップなどをまとめた文章のことを指しています。
参考事例として、「美しい村DAO」のロードマップをご覧いただくとイメージが掴みやすいです。
なお、ホワイトペーパーでは報酬設計も書きますが、後でメンバーの投票によって書き換えられる設計にしておくことで初期の設計ミスも大きなダメージになることを避けるように工夫できます。
このあたりの企画段階は、自社での内製化が厳しい部分もございます。
個別相談も受け付けていますので、ガイアックスのDAOコンサルもご活用いただければと思います。
» 大手企業・自治体の支援実績豊富なDAOコンサルに相談する
DAO企画段階の補足:合同会社型DAOにすべきか
なお、DAOを立ち上げる際に、従来のDAOと合同会社型DAOのどちらを選択するかは重要なポイントです。
※2024年4月より、合同会社型DAOの組成が認められました。
» 詳細:合同会社型DAOとは?従来のDAOとの違いや注意点をDAO運営者が解説
しかし、DAOの立ち上げ初期段階では、合同会社型DAOを選択するメリットは限られています。
合同会社型DAOの利点は、トークンによる資金調達や金銭的配送の分配、法人格としての活動ができることです。これらはDAO立ち上げ期というよりはむしろプロジェクトが成果を出した後に大きな利点となります。
むしろ、DAO立ち上げの初期は、今回お伝えしているように準備に大きなリソースが必要なので、会社設立に伴う手続きや管理コストが負担になってくる可能性も高いです。
そのあたり、実際に合同会社型DAOを立ち上げてみて見えてきたことについては、下記をご覧ください。
» 素人向けのDAO立ち上げベストスキームがあるので聞いてほしい(廣渡裕介)
DAOの作り方(構築編)
企画段階が完了したら、ツールを用いて実際に形にしていく構築段階へと移ります。
DAOはトップダウンではなく、権限が分散された民主的な組織構造を目指しているため、様々なツールを連携していく必要があります(下図参照)。
- ウォレット:DAO参加の入り口となるもので、metamask(メタマスク)が代表的なツールです。ユーザーのアカウント紐付けに使用され、暗号資産の管理や取引、投票などの操作を可能にします。
- NFTマーケットプレイス:DAO参加権や投票権となるNFTを購入できるプラットフォームです。上記画像にあるOpenSeaが大手です。
- コミュニケーションツール:DAOメンバーがチャットでやり取りを行うためのプラットフォームです。Slackなどでもいいかと思いますが、世界的にDiscordが使われることが多いです。
- 投票ツール:提案や決議に使用されるツールです。
- タスク管理ツール:DAO内で動くプロジェクトのタスクや進捗管理を行うためのツールです。タスク完了後の報酬支払いも管理します。
- 資金管理ツール:コミュニティの売り上げ、資金を透明性を保って管理します。
また、ツールごとに役割を整理すると、下記のようになります。
なお、これらの機能を一つにまとめたDAOX(ダオエックス)というツールもあります。DAOXを使った場合は全てブラウザ上で起動するので、ツールが散らばらず便利です。導入時の社内稟議も1ツール分で済みます。
DAOの作り方(コミュニティ編)
最後に、コミュニティの立ち上げと運用をみていきましょう。
DAO開始にあたり、どのようにコミュニティを考えておくべきか
DAOは権限が分散しているので、活発なメンバーがいて初めて成功といえます。
一方で、コミュニティは自然発生的に盛り上がるものではありません。
そのため、特にDAOを始めたばかりの初期では、運営側からの積極的な働きかけと工夫が重要です。
コミュニティ運営の重要指標
DAOのコミュニティにおいて、健全度合いの指標としては、以下の3つがポイントとなります。
- 投票率
- コミュニティメンバーからの自発的なメッセージ発信率
- メッセージへのリアクション率
これらのエンゲージメント指標が20%を超えるのが理想です。
ただし、DAO立ち上げの初期では人数が少ないため、20%では活発度が低すぎます。
メンバーが増えてくるにあたって、この数字が目標として落ち着いてきます。
エンゲージメント指標を測定するには
DAOコミュニティのエンゲージメント指標を測定するには、ツールを使う必要があります。
ツールの組み合わせでDAOを構築し、コミュニケーションツールとしてDiscordを使っている場合は、「comcom」というbotを使うことで、アナリティクスを導入することができます。チャンネルごとのリアクション数やメッセージの数を週別・日別で計測可能です。
» comcomについて、詳しい解説はこちら(YouTube動画)
また、先述のDAOX(ダオエックス)を導入した場合は、プラットフォームのデフォルト機能でエンゲージメント指標の分析機能があります。
コミュニティは継続的な改善が重要
コミュニティのエンゲージメントを分析したら、活性化のための施策を定期的に見直すことが重要です。これは、通常の企業におけるマーケティングと同じですね。
また、そもそも企画段階でのメンバーへのインセンティブが十分であるかも再確認してください。
DAOを始めるにあたり、押さえておきたい法規制
ここまでDAOの作り方について紹介してきましたが、DAOの開始にあたり把握しておきたい法規制もあります。簡単に一つずつ紹介します。
DAOの法的位置付け
2024年4月22日、日本においても「合同会社型DAO」が正式に認められました。これにより、DAOは法的な契約主体になれる組織形態として運営可能になっています。
これまで「オフィスの賃貸する」などの契約面で不利だったDAOの課題を解決する手段となりました。
ただし、既存のDAOが自動的にこの新しい法人格を取得するわけではなく、従来のDAOと合同会社型DAOのどちらで組織をつくるか選べることになります。
» 関連:合同会社型DAOとは?従来のDAOとの違いや注意点をDAO運営者が解説
DAOの法的リスクと規制上の課題
DAOを運営する上で考慮すべき法的リスクとして、トークンの法的定義と税務処理があります。
資金決済法の観点からは、DAOが発行するトークンが「暗号資産」に該当する可能性があります。該当する場合は、取引所などで取り扱いに規制がかかる可能性があります。
また、金融商品取引法の観点からは、トークンが「有価証券」に該当する可能性があり、この場合は発行や取引に関して金融商品取引法上の規制が適用される可能性があります。
※トークンの取り扱いに関しては、この記述に依拠することなく、自らの顧問弁護士、公認会計士、税理士等の専門家の見解を踏まえるようにしてください。
トークン類型の整理とそれぞれのトークンの法律上の定義は、下記資料のp. 10を中心にご確認いただけます。
» Web3.0 関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料
また、法定通貨と電子マネー、企業ポイント、仮想通貨における交換可否に関しては、下記で日本ブロックチェーン協会より見解が示されています。
例:「仮想通貨を渡して、企業ポイントを得るのは、電子マネーとなり規制対象」など。
仮想通貨の交換を考えている場合はご確認ください。
» 電子マネー・企業ポイント・仮想通貨の交換の可否の見解 | 一般社団法人 日本ブロックチェーン協会(JBA)
さらに、現実の資産とNFTを結びつけたいというニーズもありますので、その場合は金融商品取引法と資金決済法の区分けを書いている下記ページのフローチャートをご確認ください。
» 『RWAトークンを発行する上での主要な規制にかかる考え方』を公表 | 一般社団法人 日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)
このように、DAOの立ち上げに際してはトークンの活用を法的側面からレビューしていく必要があります。ガイアックスでは、大手企業や地方自治体のDAO構築支援やDAOに精通した司法書士との連携による合同会社型DAOの立ち上げを支援していますので、ご興味ある方は私たちにお問い合わせください。