2022年8月、渋谷にオープンした「CryptoBase」。web3に特化したシェアオフィスの形態をとり、定期的にweb3やブロックチェーンに関連するイベントも開催しています。
「Crypto(クリプト)」や「web3(ウェブスリー)」といったワードが世間を賑やかす一方で、新型コロナウィルスの台頭により、これらの話題について誰かと気軽にリアルで話し合うことを難しく感じている方も多いのではないでしょうか。
今年に入り政府が国家戦略としてweb3を掲げるなかで、CryptoBaseは主にweb3業界の起業家・DAOプロジェクト・NFTアーティストやweb3に興味関心を持つ人に向けて開かれた場所になっています。
オープニングパーティには、bitFlyer Blockchain代表の加納裕三氏、千葉工業大学 変革センター長の伊藤穰一氏など、日本を代表するweb3/ブロックチェーン関係者が詰めかけました。イベントを開催すれば、チケットはすぐに売り切れ、web3に関心を寄せる人々の新たなホットスポットになりつつあります。
今回は、「CryptoBase」を立ち上げた西村環希さんとコミュニティオーガナイザーを務める金谷愛基さんのお二人に、立ち上げの経緯やCryptoBaseに込められた想いについてお聞きしました。
西村 環希
株式会社 Planet Labs / PlanetDAO Founder
大学在学時より株式会社ガイアックスにて訪日旅行者向けツアーガイドのプラットフォームの運営やイベントショー事業の責任者を担う。2022年よりクリプトに将来性を感じ、web3特化シェアオフィス「CryptoBase」をオープン。2024年、日本初の株式会社型DAOによる歴史的建造物への小口投資プロジェクト「PlantDAO」を創業。
金谷愛基
22卒。国際開発コンサル企業でインターン後、昨年11月よりGaiaxにジョイン。採用業務、web3領域で事業立ち上げを目指す起業家向けのコミュニティであるBlockchain Biz Communityの運営、地方中小企業がスタートアップ事業に挑戦するための新規プロジェクト企画に携わったのち、今年9月よりweb3特化のコワーキングコミュニティ「CryptoBase」のオーガナイザーとして運営に携わる。
ガイアックスは、これからDAOを立ち上げたいと考える組織運営者向けに、コンサルティングを提供しています。日本初のDAO型シェアハウスなど数多くの実績があります。社内でDAO導入を考えていたご担当者様は、DAOコンサルについてをご確認ください。
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アメリカのような「web3のホットスポット」を日本にも
ーーそもそも、CryptoBaseとはどのような場所なのでしょうか?
西村 web3に関連する人たちのシェアオフィスで、毎週のように勉強会やイベントを開催しています。もともと、web3はオンライン完結がスタンダードでしたが、リアルで人と人とがつながる場所がここにはあります。
Cryptobaseでは、web3の思想や可能性を信じている人が集い、コミュニケーションを取るなかで、お互いが感化されて新しい思想が生まれる場になったらいいなと考えています。
»CryptoBase Peatixイベントページ
入居プランは3つ。まずはAfter Fiveプランから契約される人が多いのだそう。
ーーCryptoBaseのようなweb3特化のシェアオフィスは、海外ではよくあるものでしょうか?
西村 実は、CryptoBaseはニューヨーク州・マンハッタンの現地で見たweb3特化のシェアオフィスから着想を得ています。アメリカではweb3が日本より盛り上がっていて、その熱量も凄まじいものでした。クリプトに関心がある人たちは、web3特化のシェアオフィスやコーヒーショップに行って、そこに集まる人たちと会話をする。
だけど、日本だとweb3の話をすると「お金儲けの話?」となってしまったり、Discordで話す人たちはいるけれど、個々が属していると思える場所がなかなかなくて。
そこで、「アメリカ同様に、東京にもweb3特化のシェアオフィスをつくったら面白いんじゃないかな?」と考えたところから、この場所ははじまりました。
有名企業・有名VCが続々入居。“web3熱”を帯びたメンバー同士のつながりが溢れる場に
ーーいまCryptoBaseには、どのような人が集まっていますか?
金谷 web3の熱を帯びている人が多く集まっていますね。DAOプロジェクトを自ら立ち上げている方や、すでにweb3関連の事業をつくられている方、これから事業を立ち上げたい方など、web3の思想やブロックチェーンという新たな技術に可能性を感じている人たちが集まっているのが特徴です。
web3を軸に人と人とがつながって、互いの思いを熱く語り合っている姿を至るところで見かけます。
また、法人入居の面ですと、Skyland Venturesやその投資先企業、マルイのNFT事業部などの企業様にご利用いただいています。
コミュニティオーガナイザーとして、こうしたメンバーの熱を大切にしながら、これからのCryptoBaseを形づくりたいなと思っています。
ーー実際にオープンしてみて、利用者の反応はいかがでしょうか?
西村 CryptoBaseにいらっしゃる方たちとお話すると、蓋が開いて栓が抜けて、「どどどー!」っと、熱量が出てくるような感じがすごいんです(笑)。
たとえば、昼間はweb3とは関連のない仕事をしているAfter Fiveプランの方が、日中はweb3について口にも出さないけれど、夕方にはCryptoBaseに寄ってweb3について熱く語る。そんな現象が集まりがある度に起きています。
定期的に開催している夜のイベントでは、取り上げるテーマが分散型ID(DID:Decentralized Identity)の活用方法やNFTの著作権などの玄人向けのものから、みんなで書籍を持ち寄って読み合わせ会を開催するようなライトなものまで、幅広い層の方が楽しめるコンテンツを展開しています。
会員証はNFT、コミュニティ運営はDAO型。web3をリアルに体験できる新たなシェアオフィスの形
ーーほかのシェアオフィスとCryptoBaseとでは、どのような点が異なるのでしょうか?
西村 「web3に関しての知識はあるが、実際に技術を体験する機会がない方」が、web3をリアルに体験できる場所という点が大きな違いです。
たとえば、web3関連のイベント開催に加えて、NFTでの会員証発行や、運営資金をオープンにしてメンバーで決めていくDAO的なコミュニティ運営など、ほかのシェアオフィスと異なる特徴が多々あります。
加えて最近では、NFTの会員証を用いたNFTの認証スマートロックの体験もできるようになりました。実は、このCryptoBaseのためにガイアックス社とフォトシンス社との共同プロジェクトとして、NFTの認証スマートロックを開発していただいたんです。
このように、最新のweb3を体験できる唯一無二の場所として、さまざまな取り組みを続けています。
ーーweb3の世界観が好きな方からすると、たまらない仕掛けが満載ですね。
西村 そういった方に加えて、「web3に関しての知識はないけれども興味はある方」に対しても、CryptoBaseは広く開かれています。
利用者の方も運営スタッフもオープンで敷居が高くないので、「何から勉強したらいいか分からない」「web3界隈の人とのつながりがない」といった方たちもフラっと立ち寄っていただけるのが特徴です。
また、CryptoBaseがある渋谷の「NIB SHIBUYA powered by MIDORI.so」は、もともとクリエイティブな人が多く集まっている場所でもあります。
なので、web3だけでなく、ほかの領域の方ともつながれる場になっていることも、CryptoBaseの魅力の一つですね。
貢献した人に対価を与えられるシステムの可能性
ーー西村さんがCryptoBaseを立ち上げ、その後に金谷さんと出会うまでには、どんなストーリーがあるのでしょうか?
西村 CryptoBaseの立ち上げが決まったときに、コミュニティマネージャーとして運営をしてくれるメンバーを探していたんです。そんなとき、ガイアックスで運営しているBlockchain Biz Communityのコミュニティマネージャーをされているのが金谷さんだと知りました。
金谷さんと実際にお話してみて、クリプトにも造詣が深くて特別な想いを持っていらしたので、彼女ならコミュニティをつくる以上のことができる気がして、CryptoBaseの運営をお願いしたんです。
ガイアックスではブロックチェーンに2015年から取り組んでおり、Blockchain Biz Communityはその活動の一つです。
ーー金谷さんにある「特別な想い」とは、一体どんなものでしょうか?
金谷 もともと、価値ある働きに対して具体的な対価が得られる社会づくりができたらいいなと思っていたんです。
大学生のとき、私は国際協力に興味があって学生団体に所属していたのですが、途上国で家のない人たちに対して現地の人たちと一緒に家を建てる活動に参加するには、個人で十数万円ほどかかることがわかった経験があって。その時に、そのハードルの高さに違和感を覚えたんです。
「何か自分の目指すモノ・コトを実現したい気持ちがあっても、置かれた環境によってその実現可能性が左右されてしまう」。
どうすれば、自分が目指す社会の実現に近づくのかを模索していた時、JBA Blockchain Bootcampに参加し、ブロックチェーンの持つ新たな仕組みに可能性を感じました。トークンエコノミーなどを通じ、プロジェクトのビジョンに共感した人たちが集って、そのプロジェクトに対して何か貢献した人に対価を与えるシステムが構築できる。「これなら経済的に余裕のない学生でも、価値のある働きをした対価として相応の報酬を得られる」と、強い期待を抱きました。
CryptoBaseも、web3やブロックチェーン技術が持つ可能性を信じて挑戦し続ける人たちが集い、さらには彼らのビジョンに共感する人たちがつながることで、コミュニティ内で新しいプロジェクトが生まれることを推進できる場所になるのだろうなと考えています。
西村 私もクリプトやweb3の世界では、課題を感じている人たちがテーブルで議論をして意思決定ができる点に魅力を感じています。政治の話もそうですが、課題を感じている当事者がテーブルの上で意思決定をすることが大事だと思うんです。
CryptoBaseのみならず、新たに生まれるDAOプロジェクト
ーーこれからCryptoBaseで実現したいことなどはありますか?
西村 シェアオフィスとして、場所提供だけでなく、“コミュニティ”であることが大事だと思っています。黒子役に徹するように、web3やブロックチェーンに興味がある人やスキルがある人などをつなげ、みんなをエンパワーメントできる場所にしていきたいですね。
また、クリプトに興味がある海外の方も集まるようになったりと、「東京でweb3に関心がある人が集まる場所 = CryptoBase」になってほしいとも思いますね。
ーーCryptoBaseに続き、西村さんはほかのプロジェクトも手がけはじめているとお聞きしましたが、そちらはどういったものなのでしょうか?
西村 社会課題を解決するためのブロックチェーン活用方法である「ReFi (Regeneration Finance)」という分野の事業を立ち上げており、特に日本の土地が関わってくるプロジェクトを推進しています。
現在の資本主義では、土地は開発目的でつくられていますが、すべてが経済的な目的で動いてしまうと、ひずみが出てしまう懸念があります。市民が大事にしている森を開発してしまうなどのお話は、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
でも、商業的に開発されそうになっている土地をDAOのシステムを通して買い取れたら、この問題は解決できるかもしれないなと思うんです。
面白い例で言うと、鎌倉の鶴岡八幡宮の裏に森があり、ビルが建ちそうになったときに市民の方々が募金を集めて土地を買収したことがあって。そういったプロジェクトをDAOを通して実現できたらいいなと考えています。
ーーお二人がブロックチェーン技術を通して描くフェアな世界。これからどんなことが起きていくのでしょうか。楽しみにしています!
インタビュー・執筆 遠藤桂視子
編集 ヤマグチタツヤ