時代が大きく変化する今、個々人が自主自律的なあり方に進む上で「コーチング(*1)」が再び注目を浴びており、またコーチングを社内に導入する企業も増えています。旧来型のトップダウンで手元に来る仕事を進めるというところから、自主自律的に自身のライフパーパスに基づいて仕事を進めていくことが求められています。
今回お話を伺ったのは、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社 野崎貴弘(のざき・たかひろ)さん。3年前から経営トップの支援のもとに社内で「いきワクプロジェクト」を立ち上げ、個人コーチング、チームコーチング、1on1の実践方法に関する勉強会、組織開発ワークショップなどを実施されています。プロジェクトを立ち上げるに至るまでの想いや、遂行する上で大切にしている考え方に迫ります。
*1: コーチングとは、相手の話に耳を傾け質問を重ねることにより、相手の潜在的にある想いや答えを引き出し、目標達成に向け行動変容を促すためのサポートです。
社内でコーチングや研修を提供する「いきワクプロジェクト」を発足
ー 野崎さんとコーチングとの出会いは?
東京エレクトロングループには新卒で入社してから25年間在籍しているのですが、今から6年前に本社の人事部門で人材開発やHRビジネスパートナーの仕事をしていました。その時に、組織開発のための知識を学ぼうと「社内コンサルタント養成コース」という半年間の社外研修に参加しました。研修を担当していた現役コンサルタントの方と話している中で、さらに理解を深めたいと思ったのが最初のきっかけでした。
その後、現在の会社に異動して、さらにコーチングや組織開発の知識を深めていきたいという想いが出てきたタイミングで、2016年にコーチングプログラムを提供するCTIジャパンで学び始め、プロコーチならびにシステムコーチングの資格を取得しました。
ー 「いきワクプロジェクト」が誕生した経緯について教えていただけますか?
コーチングを学び始めた時期にコーチとしての経験を積みたいと思い、社内で「コーチングを受けてみませんか?」と投げかけたのが始まりでした。
その後、社内のプロジェクトとして推進していこうと決意しました。東京エレクトロングループの経営理念の一つである「全社員が自由闊達な雰囲気の中で、個々の能力を最大限に発揮し、いきいきと活動できる組織を目指す」という一文から着想を得て、「いきワクプロジェクト」と名付けてスタートさせました。プロジェクトのビジョンは、今も一緒に「いきワクプロジェクト」を遂行してくれているメンバーと共に描きました。
個人コーチングを始めてから約1年半の月日を経て、正式なプロジェクトとして始まり、2名で始めたプロジェクトも今では4名体制で運営しています。
ー 「いきワクプロジェクト」の概要について教えていただけますか?
対象者は東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社に所属する約3,000名の社員で、内容は6つの柱から成り立っています。
- 個人コーチング
現在は部長、課長クラスをメインに実施。 - 組織開発
コンサルタント的に関わりながらチーム内での対話を促すように設計し、定期的にミーティングを実施し、2~3年という長期にわたりサポートすることも。 - 勉強会(チームビルディング、コーチングセミナー等)
管理職を支援するという目的で、1on1のレクチャーなどを実施。 - 毎月のメルマガ発行
いきワクプロジェクトの社内広報の位置づけで毎月発行。 - いきワクLABO
申請をして認可されれば、就業時間中に、時間の制限なく好きな研究や開発をしてよいという制度を設計。 - キャリア相談
仕事でモヤモヤを抱える社員向けに、相談窓口として半年前に開設。「コーチング」という名称だとハードルが高いと感じていたり、継続的に受けなくてはいけないと感じている社員がいたので、申し込みやすい名称をつけて新設。
個人・チームに対してコーチングをベースとした関わりをしていますが、根底にあるのは社員の「いきワク」を創出することです。
プロジェクトの推進を阻む「3つの壁」とその対処法
ー 推進していくにあたって、障壁はなかったのでしょうか?
もちろんありましたし、今でもあります。私は今までの経験を通じて、活動を阻む「3つの壁」とその対処法について、自分なりの見解を得たので、シェアさせていただきたいと思います。
3つの壁:
- 理解されない
- 人が集まらない
- 成果が出ない
1.理解されない
全員に理解されようと思わないということです。何か新しいことをやろうとすると、3割の人からはどれほど伝えても興味関心を得られなかったり、ただ単純に「野崎がやっているから嫌だ」と思う人だっているはずです。でもその代わりに必ず理解しようとしてくれる人がいるので、その人を味方につけて、理解者を増やしていくことが大事だと思っています。「理解されない」ことはあって当然。でも、それ自体が活動を止める理由にはならないということです。信じて、続けることが大事です。
2.人が集まらない
例えば、何かをやるときに3人集まったとしましょう。「3人しか」と思うか、「3人も」と思うかの違いです。「3人しか」と思うと、もう次をやりたくなくなるんです。「3人も来てくれた!」と思って全力投球をしていくと、口コミが広がるかもしれないし、評判が上がるかもしれない。失敗というものはないと思っています。止めると失敗になりますが、続けている限り失敗にはならないのです。
3.成果が出ない
そもそも、既存の指標では測れないことをやっているということです。今までの常識になかったことをやっている。指標で測ろうと思えば測れますが(例:コーチングの満足度など)、軌道に乗せるまでは測ろうとしないことです。活動を続けていること自体、それが成果であると考えた方がいいと思っています。
ライフパーパスと会社の大義の交点を見つける
ー なぜそこまで強い信念をもって推し進められているのでしょうか?
この「いきワクプロジェクト」は、私のライフパーパスそのものだからです。
私のライフパーパスは、「”愛”を循環させて生きている人を増やす」ということ。
このライフパーパスを考えたのは、40歳の時でした。39歳の時に岩手で東日本大震災を経験し、それまでの仕事は経営企画を担当し数字を扱っていましたが、だんだんと数字を作っている”人”の方に興味を持ち始めました。自分自身の棚卸しをしたり、人の幸せについて考えることが増えていきました。
そして今信じているのは、「人は誰しもつながりたいと思っている」ということです。人間が生きていく上での恐怖は、孤独だと思うんです。しかし、人と人が想い合う気持ちが循環していくと、勇気づけられたり、一人じゃないと思えたりするじゃないですか。そういう循環によって、人がエナジャイズされる世界を作り出していくことが私のライフパーパスです。
ー ライフパーパスと会社の大義はどのように結びついているのでしょうか?
「Will」「Can」「Must」の3つの輪のイメージです。
「Will」は、ライフパーパス。「Can」は、自分が提供できること。「Must」は、会社から期待されていることやミッション。3つの輪の交点のところで仕事ができると、充実感のある仕事になると考えていて、私自身が率先して体現していこうと思っています。
また、よくお伝えしているのは「Will」を起点に考えた方がいいということです。
「Can」と「Must」の交点で仕事していると、できることは増え、評価され、ここを高速回転させるようになります。でもある時、「自分の人生ってなんだったんだろう」という問いが出てきます。「Will」がしっかりしていれば、「Can」は自然と増えていきます。誰かが止めようとしても止められないというサイクルになるのが、理想的な学習方法だと思います。
ー ありがとうございました。最後に、同じように社内コーチを目指す方に対して、メッセージをお願いできますでしょうか?
自分が楽しんでやることを、大事にしてほしいと思っています。
そのためには、心身ともにヘルシーな状態でいると、変なプレッシャーにも影響されなくなり一定のパフォーマンスを出せると思っています。心と身体はつながっているので、自分なりのルーティーンを見つけて、普段から心身ともに整えることをおすすめします。
そしてもう一つ、応援し合える仲間をもつこと。仕事内容や場所は違っても、一緒にもがきながら、応援し合える仲間がいると思えるだけで頑張れると思います。この記事や12月のイベントで、社内コーチを目指すみなさんの力になったらうれしいなと願っています。
インタビュー:荒井智子
ライティング:樗木亜子
12/9(水) 社内コーチの先駆者をゲストにお招きし、イベントを開催します
■イベント名
「社内にコーチング文化を取り入れる」社員数3,000名の組織の中で動き出す個人の想い
〜東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ(株)野崎貴弘さん〜
■日時
2020年12月9日(水) 19:30〜21:00
■会場
オンラインイベント
*zoomを使用します
■参加費
無料
*イベント開催後、1週間視聴いただける録画チケットもご用意しております。
■登壇者
<ゲスト>
東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社 野崎貴弘さん
■こんな方におすすめのイベントです
・すでに社内コーチとして活動している方
・これから社内コーチとして活動したい方
・社内にコーチングを導入したいと考えている方
・自律的な組織運営に興味をお持ちの方
■主催
株式会社ガイアックス 社内コーチチーム
■お問い合わせ
info@tinypeace.jp
■イベントページ
「社内にコーチング文化を取り入れる」社員数3,000名の組織の中で動き出す個人の想い
編集後記
ご自身のライフパーパスを原動力に活動される、野崎さんの生き生きとした表情と言葉の一つ一つが力強かったことが印象的でした。「3つの障壁と対処法」はくじけそうになった時に立ち戻りたいなと思いました。