メンタルが整っていると、仕事で新しいアイディアが浮かんだり、挑戦する気持ちが湧いてきたり、より高いパフォーマンスを発揮できることにも繋がるのではないでしょうか。仕事だけでなく、人生全体が豊かになっていくかもしれません。
しかし日々の仕事に没頭するあまり、心や体が発するアラートにも気づかない…そんな人も少なくないのでは?
困難なことがあっても、状況に合わせて柔軟に立ち直る「しなやかな強さ」をレジリエンスと呼びます。変化やストレスの多い現代社会にうまく適応し、精神の健康を保ち、どのように回復しているのか?
ガイアックスでは、リーダー達のレジリエンスをシリーズでご紹介します。
ガイアックスではオンライン座談会にて、ガイアックスメンバーに直接疑問をぶつけることができます。「採用に興味がある」や「ガイアックスってどんな会社だろう?」と思った方はぜひ採用ページからご確認ください。
今回お話を伺ったのは、ガイアックスのソリューション事業本部・本部長の管大輔(すが だいすけ)さん。
2019年の夏にオランダに移住し、現在はフルリモートで働いている管さんに、メンタルヘルスを整える習慣についてお聞きしました。
管 大輔
ソリューション事業本部責任者
2013年新卒でガイアックスに入社。2015年9月から事業部長を務め、クラウドソーシングの活用、リモートワークの推進など働き方の多様化を積極的に進めた結果、2年間で離職率を40%から0%に、売上が5倍に成長。2019年に本部長就任。2020年に新卒採用支援サービス『オンライン就活』を立ち上げ、事業責任者を兼務。複業ではコーチング事業を展開する会社を設立し、コーチング型マネジメントの普及に注力している。2019年の9月からオランダに移住。
メンタルヘルスを整える習慣
複数の居場所を作り、仕事から離れられる環境を持つ
ー 仕事でパフォーマンスを発揮するためには心や体のケアが欠かせないと思いますが、管さんが心がけていることはありますか?
管:複数の居場所を持つことを大切にしています。例えば所属しているのが会社のコミュニティだけだと、仕事がうまくいかなくなった時に、世界が閉じていく感覚になるんです。他にも繋がりはあるはずなのに、どんどん追い詰められてしまう。
2019年に海外を20数カ国周る中で、色々なコミュニティや居場所を見つけておくと気持ちが楽になると気づいたんです。できるだけ若い内に、複数の居場所を見つけておくことが大事だと思います。
今ではメンタルが不調になる前に、仕事関係以外の人との予定を入れるようにしたりコーチング(*1)を受けることで、仕事から離れられる時間を定期的に作ることを習慣にしています。
*1: コーチングとは、相手の話に耳を傾け質問を重ねることにより、相手の潜在的にある想いや答えを引き出し、目標達成に向け行動変容を促すためのサポートです。
ストレスから逃げるように海外へ行くも、向き合わざるをえない状況に
ー そもそも、どうして海外を周ることにしたんですか?
管:最初の動機は、追い込まれていたからですね(笑)。2018年秋頃にはガイアックスで本部長になることが決まり、オンラインコーチングサービスを提供するZaPASSを立ち上げることも決まり、私生活では離婚も決まっていました。全ての出来事が2019年にやってくるので、もう年を越したくなくて…
新しい土地に訪れるとたくさんの刺激があって辛いことやストレスも忘れられるので、最初は逃げるように海外へ行きました。今思えば、当時は鬱になりかけていたと思います。
ー 仕事や私生活で大きな出来事が重なり、追い込まれてしまっていたんですね。
管:今までは刺激を受け続けて辛いことを紛らわしていたのに、コロナの感染拡大の影響で、毎月のようにしていた移動ができなくなりました。その時に、1年前の離婚のことが思い返されてかなり辛くなってしまったんです。このままではまずいと思い、2020年の3月頃から新しいコーチに依頼し、カウンセリング寄りのコーチングをお願いしました。コーチングを受け始めた4月のある日、突然脚が動かなくなってしまったんです。自力で歩くことが難しく救急車を呼ぶ寸前だったのですが、精神的なものが原因になっていたようです。コーチングを受ける中で、かなりデトックスが進んで、一時的に精神的にかなり負担がかかる状態になっていたんでしょうね。
初めて向き合ったネガティブな感情。正体を知ることで安心できた
感情に蓋をし、機械のように仕事をする方が楽だと思っていた
ー それまでの管さんは、感情とどのように付き合っていましたか?
管:まず、感情に蓋をした方が仕事で成果を出しやすかったんだなと気づきました。特に管理職になると、自分でコントロールできない痛みがたくさん生まれます。仕事ができる人というのは、その痛みに耐えられる人なのかもしれません。僕が2015年の9月に事業部長になってからは、より痛みを感じず、受け流せる自分でいたいと思っていました。
当時の僕は、コンクリートが好きだったんですよ。コンクリートはどんな天候でも状態が変わりませんが、土や砂だと雨が降ればぬかるむし、水たまりもできますよね。僕は毎日一定の状態で仕事をしたかったので、地面も空もコンクリートで覆ってしまえばいいと思っていました(笑)。
ネガティブな感情は成果につながらないし、辛いじゃないですか。それに、ネガティブなものから目をそらしている時はそれがすごく大きなものに感じてしまって、余計に見ることが不安になる。だからポジティブでいる方が楽だと思っていたし、ポジティブで押し切って隠すことしか知らなかったんです。
仕事の成果だけが自分の価値だと思っていた
ー 管さんが感情に蓋をするようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
管:自分が仕事でうまくいかなくなったら、みんな離れてしまうのではないか、という恐れはありました。僕は管理職になるのも早かったし、仕事で成果を出したくて、日本にいるときは基本的に仕事関係の人とばかり会っていました。仕事と関係ない人と会うのは時間の無駄だとすら思っていて。そういう毎日を送っていたので、周りにいる人は僕の仕事に価値を感じて繋がってくれていると思っていたのかもしれません。
ー 仕事で成果を出すことを期待されているから、期待に応えないと人が離れていってしまう、と感じていたんですね。
管:ずっと「期待に応えること」がモチベーションでした。僕はたまたま運動も勉強もできて、学級委員もしていたようなタイプなんです。小学校1年生の頃に6年生と野球をしていたり、計算ドリルを解くのが早かったり。当時のあだ名は「天才くん」でした(笑)。
自分が運動ができてテストで高い点数が取れるから、みんなが認めてくれると思っていました。ガイアックスに入ってからもたまたま初受注したタイミングが早く、上司がすごく褒めてくれたので、「期待に応えられる自分でいないと」と思っていました。その呪縛から解放されたのが2020年ですね。
「ネガティブな感情に正面から向き合う」という変化
ー コーチングを受けたことで、どのような変化がありましたか?
管:コーチングセッションの中で、コーチから「今、管さんが苦しんでいる感情を言葉にしてください」と言われて。でも、言葉にするのも辛かったし、恥ずかしさもあって最初は断りました。言葉にすることに、何の意味があるのかわかりませんでした。
でもセッションを重ねていく内に、試しに言ってみようという気持ちになり、ネガティブな感情を言葉にしてみました。
ー 実際に言葉にしてみてどうでしたか?
管:意外とスッキリして、気持ちが楽になりました。言葉にしたことで感情の大きさを捉えられた感じがして、相手の大きさや正体がわかれば付き合えると思ったんです。
感情の蓋を開けるともっと辛くなるのではなく、安心したり心地よくなることを体感したので、次々に蓋を開けにいきました。どんどん色々な感情が出て来るようになり、「自分はこんなにも色々なことを感じないようにしていたのか」と気づいたんです。泣くようにもなった。それまでの自分は涙を流すような場面になったら心を無にして、シャットアウトしていたのだとわかりました。
ポジティブさで覆い隠すことしか知らなかったので、ネガティブなものをそのまま受け入れても乗り越えられるという衝撃がすごかったですね。今までは、谷がありそうなところに無理やり何かを敷いて落ちないようにしていたから、谷の正確な場所や深さがわからなくて怖かった。でも、今は谷の場所も深さもわかっているから、不安がなくなったのだと思います。
そして蓋を開ける過程で、感情は人間だからこそ得られるものだと気づいたんです。それまでは痛みを感じずにやるべきことをやる、機械のようであろうとしていました。
去年(2019年)の夏からオランダにいますが、去年は気づかなかったオランダの風景に今年は気づくようになり、自然と触れ合う時間を大事にするようになりました。公園のベンチに座って湖を眺めたり、道端に咲いてる花の種類を調べてみたり。いろんな感情を味わえるようになってきました。
仕事においてはむしろ非効率な変化かもしれないですが、より感情豊かになって、今の自分の方が人間っぽくて好きだなと思っています。
ー 「ポジティブで押し切ること」と「ネガティブなものを受け入れる」というそれぞれの乗り越え方を体験してみて、今後はどのように感情と付き合っていきたいですか?
管:人間に備わっている感覚をフル活用したいと思っています。美術館に行ったり、街の景色の移り変わりに気づいたり。コンクリートが好きだった自分からすると、劇的な変化ですよね(笑)。
以前はポジティブな感情だけが自分の喜びだと思っていました。でも今は、ポジティブもネガティブも関係なく、自分の感情や感覚が動いた瞬間の全てに喜びを感じられるようになったんです。痛みを感じるのも、生きているからなんですよね。
今年の4月に脚が動かなくなった時は、「このまま歩けなくなるかもしれない」と思いました。その時の経験もあるので、自分の機能や感覚が働いている内に、それらを活かして味わいたいと思いますね。
レジリエンスを保つために
ガイアックスとはぐくむは共同で「自主自律型組織変革コンサル」を行っています。
目的はチームメンバーが指示命令によって動くのではなく、一人一人が各々のビジョンにしたがって自律的に動き、チームとして最大限のパフォーマンスを発揮できる組織になること。独自の組織状況診断、ファシリテーションによる議論や対話の質を高めるサポート、コーチング型のコミュニケーションを根付かせるための研修も行っています。
新人の頃からメンタルをセルフケアする習慣を持とう
自分の「当たり前」の外に出たことで視野が広がった
ー 管さんにとって、海外に出たことはどのような経験になりましたか?
管:海外に行って一番よかったと思うのは、僕のバックグラウンドを何も知らない人と仲良くなれたことです。仕事を頑張っている自分としてではなく、ただの「管 大輔」として仲間ができる感覚は新鮮でした。
大学時代にオランダで教育実習をした時のことも印象的でした。先生も生徒も、誰かを紹介する時に「頭がいい」「足が早い」という紹介はしないんですよ。僕はいい成績を取ることでしか認められないと思っていたけど、テストの点数以外でも相手のことを語ることができるのだと知りました。
海外に出る前の、東京で仕事をしていた2〜3年前は自分と同じような人たちとしか会っていなかったので、それが「当たり前」だと思っていました。でも、海外に出たことでバラエティに富んだ人たちと出会い、生き方の選択肢が広がったのかもしれません。仮に今やっている仕事がうまくいかなくなったとしても生きていける、と思うと気持ちが楽になりました。
逃げ場があるからこそ突き進める
ー セルフケアという点において、新卒時代の自分にアドバイスをするとしたらどんなことを伝えたいですか?
管:僕の場合は、感情に蓋をした期間があるからこそ気づけたことがあるので、「感情に蓋をしない方がいい」というアドバイスはしようとは思いません。でも、色々と居場所を作っておいた方がいいよ、とは伝えたいですね。仕事以外の関わり方ができる場所であったり、今の仕事以外にも働き方に選択肢を持っておくことは大事だと思います。
僕の仕事に価値を感じて繋がってくれている人と、僕自身に価値を感じて繋がってくれている人は別だと感じていて。後者がいることに気づけてからは、すごく楽になったんです。
逃げ場がないのにがむしゃらに頑張ってしまうと、うまくいかなかった時に追い込まれてしまうので、立ち直れる場所があった方がいいとは思いますね。
そういう観点で一番大事なのが家族なのかもしれません。どんな姿だろうと、どんな仕事をしていようと、受け入れてくれる存在。自分が親になったら、子供にはそう感じてもらいたいですね。「いつでも戻って来ていいよ」というのが一番のセーフティネットになるのではないでしょうか。
僕は身近な人ほど放っておいても大丈夫だと思って大事にしていなかったタイプですが、今は身近な人こそ大事にしたいと思っています。
ー 海外に行かなくても、多様な価値観に触れて人生の選択肢を増やすことや、安心できる居場所を複数持つことはできそうですね。たくさんのヒントをいただきありがとうございました。
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インタビュー:荒井智子
ライティング:黒岩麻衣
編集後記
機械のようであることと、色々な感情を味わいながら生きること。どちらがいいのかはわかりませんが、感情に蓋をしていた管さんが今は色々な感情を受け入れて楽しんでいる。閉じていた花が咲くようで、とても美しいプロセスだなと感じました。