圧倒的なスピードでキャリアを登り詰めた松田光希さん。
その裏側にあったのは、緻密かつ膨大な情報収集とアクションの数々。
Gaiaxでは自ら高い目標を掲げて挑戦し続け、Gaiaxを卒業されたいまはスタートアップのCFOとしてご活躍される松田さんにキャリアを加速させる仕事術を伺いました。
松田光希さん
1992年生まれ、北海道大学卒業。2015年に株式会社ガイアックスに入社し、CVC子会社を新設、代表取締役就任。シード出資及びコーポレート系ハンズオン支援を多数実行した後、2018年よりアディッシュ株式会社にIPO責任者として参画。2020年、27歳にして東証マザーズ上場を果たした後、取締役としてコーポレート・経営企画・IR領域を管掌。2022年よりAnyflow株式会社に参画し、取締役CFOに就任。
強烈なインプットで仕事力を高め、常に一段上の環境に身を置き続ける
学生時代の活動や、就活でのエピソードを教えていただけますか。
学生時代は、積極的にインターンに行くタイプではなく、パルクールという当時はプレイヤー人口も知名度も非常に少なかったスポーツのサークルを立ち上げました。いま思うと、この経験で、ゼロからイチを生み出す突破力が身についたと思います。
就活については全く知らなかったので、始めて2週間、毎日深夜3時くらいまで、片っ端から就活関連サイトを調べて、どんな検索ワードをかけてもだいたい読んだものばかりになりました。就活を優位に進めるためには、クリティカルシンキングなど各種フレームワークを頭に入れておくと良いと書かれていたので、書籍も読み漁りましたね。就活を始める段階で札幌在住だったため、東京での面接をまとめて受ける必要があり、結果的に短期集中で一気に進めることになりました。
学生時代にどんなキャリアイメージを描いていましたか。そのキャリアを実現するために選んだ場所がガイアックスだった理由もあわせて教えてください。
就活の面接では、当時衝撃を受けた「イーロン・マスクを目指します!」と言っていました。
事業家に憧れを抱いていたので、海外の起業家の自伝を読んで勉強していたんですけど、みんな泥臭いことをちゃんとやっている。営業、マーケ、財務など、事業に関わるすべてを数年で経験したいと思っていて、ガイアックスならそれが叶うと確信したんです。いろいろと経験しておかないと、自分が事業家やマネージャーになった時に人の痛みがわからないし、同じ目線で会話ができなくなってしまうなと。
キャリアとそれぞれでのご経験を教えていただけますか。
- 2015年4月〜10月:株式会社ガイアックス M&Aチーム
- 2015年10月〜2018年9月:株式会社GXインキュベート(ガイアックス子会社) 代表取締役
入社してすぐM&Aを担当するチームに入りました。対象となるスタートアップをリサーチして、コンタクトを取り、M&Aを実行する役割を担っていました。
アポを取るためのメール1通の内容を考えるのにも、本気で取り組まないとなかなか機会が得られない。加えて、短期間で収集した情報を書類にまとめたり、財務領域も担当だったので会計や法律の勉強もしたり、同時に企画の回し方についても勉強するカオスな日々を送っていました。専門書をひたすら読んでインプットして実務を進めましたね。「よくわかる〇〇」みたいなレベルではなくて、法律事務所が書いている値段も高い専門書で勉強しなければなりませんでした。プロジェクトで発生しうるリスク、チーム編成、プロジェクトスキームなど、細かく書いてある本を1ページずつ全て読んでいました。当時、ガイアックスのオフィスがあった五反田の書店のビジネス書コーナーにある関連本はほとんど読み切っていました。
入社から半年後、2015年10月にガイアックス子会社(当時)のファンドである株式会社GXインキュベートの代表取締役社長に就任し、ベンチャーキャピタリストとして、出資活動をすることになりました。
- 2018年9月〜2020年3月:アディッシュ株式会社 IPO責任者
- 2020年3月〜2022年3月:同社 取締役
「20代で上場を経験したい」と強い思いを持っていた25歳のとき、上場準備フェーズの会社に上場準備責任者として入り、会社を上場にコミットするというポジションでオファーをいただき、アディッシュ株式会社(2014年にガイアックスからカーブアウト。2018年に第三者割当増資を実施しガイアックスの連結から除外。)へ参画しました。上場準備委員会は主に4名、僕以外のメンバーは労務や経理、管理職としての通常業務がある中で上場準備をしており、フルコミットできるのは僕だけでした。各自のリソースを考えながら、全員でなんとか作業を終え、関わらせていただいてから1年半後、無事に東証マザーズへの上場を果たしました。その後、2年間アディッシュで取締役としてIRや経営企画、人材育成などに関わりました。
- 2022年3月〜現在:Anyflow株式会社 取締役CFO
CFOとしての業務や経営企画などを一通り経験し、新たなフェーズでさらなる成長を求めていたため、成長初期のスタートアップでCFOとして全面的に関われる環境は非常に魅力的でした。そこで、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)達成前のAnyflowに参画することを決意したのです。
SaaSプロダクトが誕生し、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成し、世の中に認知されるまでのすべてのプロセスをバックオフィスとして支えています。誕生したプロダクトの初めての請求書を発行したり、その金額が100倍に増えていく過程を見てきました。当初数名だったメンバーも、いまでは業務委託を含めて20名ほどになりました。
プロジェクトを最短最速で進めるために必要なのは「高速餅つき」の視点
これまでのご経験から、新たな環境で適応するために意識していることを教えてください。アディッシュ株式会社(以下、アディッシュ)へは、「社外」の「IPO未経験者」として着任され、簡単に信頼を獲得できるポジションではなかったと思いますが、どのように協力体制を築いていったのでしょうか。
どんな仕事でも最初に、そのビジネスの細部まで知識をインストールすることを意識しています。ビジネスモデルや現場の理解の解像度が低いまま、コーポレートの仕事を進めるのが嫌いなんです。営業サイドの事情や契約書の回収プロセス、現場のスケジュール感など、手に取れるようにイメージできる状況を作らないと、現実的に実行可能かどうかが判断できません。そのために、ステークホルダー全員の仕事の役割と責任範囲を把握していました。
どの業界でも、相手のビジネスモデルやコスト構造を理解しないと、適切な業務依頼ができないと思っています。例えば、ある仕事をオンラインアシスタントに依頼するときも、そのアシスタントのスキルや料金に見合った内容を依頼できていないと、アウトプットに対して不満を抱くことになります。その不満は前提を理解していないから起こることであって、相手の立場や状況を理解することが、いい仕事をするためには必要だと思っています。
コスト構造や相手の状況を理解して仕事を進める。ほかにもいい仕事をするために、松田さんが意識していることはどんなことですか。
「自分が経営者だったらどうやるか」という視点を持ちながら、仕事に緩急をつけるようにしています。人は誰しもアクセルを踏み続けると、体調を崩しちゃうので、緩急が大事です。たとえば、「これは今夜片付けないと全部が止まるな」っていう場面では、絶対に付き合い方を変えます。本当に大事なときってありますよね。それを見極める嗅覚を養うことが重要です。
経営者の視点で捉えると、がんばらなきゃいけないポイントは明確ですし、逆にここは少し力を抜いてもネガティブな影響は大きく出ないなっていうのもわかる。だから、よく「経営者視点を持って意思決定しろ」って言いますけど、それはまさに「自分が経営者だったらどうするか」の到達点だと思います。
その視点で仕事していると、自分の職責に入っていないことでも関係なく、気になることは介入しちゃいますね。「この後まずいんじゃない?」って感覚があると動かずにいられないというか。
松田さんは経営者として意思決定する機会も多いと思いますが、正しい意思決定のためには何が必要ですか。若手の読者の方向けに、経営者視点の養い方についても教えていただきたいです。
まず最初は、社内のいろんな部門・役職の人とランチに行くなどして、接触機会を作るのが大事です。会社の全体像は、ドキュメントに書かれていることだけでは1割も分かりません。ビジネスモデルやキャッシュフローが理解できても、それだけでは会社全体が見えてこないんです。だからランチに行くなどして、周辺市場の知識、予算の動き方や社内の人間関係など、あらゆる情報をインプットします。経営の判断は、正解や間違いがないことも多いので、その場しのぎの情報だけでなく、それらの情報をもとに総合的に意思決定をしています。
経営者視点を得るためには、経営者が下した意思決定のロジックやプロセスを横で観察したり、理解できなければ経営者に聞くことで、自然と理解できるようになるのではないかと思います。
松田さんが仕事を進めるときに大事にしていることを教えてください。
どんな仕事でも、始めから終わりまでの最短ルートを、頭の中に映像としてイメージし、なるべく完璧に描いています。常に2〜3ステップ先の後工程を想定して、仕事を進めます。これは最近言語化できたのですが、後工程を考えた上で返ってくるボールと、後工程が考えられてないただ返ってきたボールではその後の仕事のしやすさが断然違うな、と。
まるで、高速の餅つきをするときに相手が次に餅を打つタイミングを予測して動くように、仕事をする全員の思考回路が共通していることが、プロジェクトを最短で進める上で大事だと思っています。プロジェクト進行について書かれている本はあっても、意外に「おたがいが気持ちよく最速でボールを投げ合うための仕事法」が書かれている本は少なくて。この辺りは、仕事をしながら得た知見ですね。
松田さんの仕事術
- 何事もまず、ビジネスの細部までインストール。ビジネスモデルと現場感を徹底的に理解する
- 経営者視点で捉える。仕事に緩急をつけて自らのコンディションを保つ
- 経営の意思決定は正解がないからこそ、多角的に情報をインプットする
- 仕事の始めから終わりまでの最短ルートを完璧に描く
- 他者と仕事を円滑に進めるために、2〜3ステップ先の後工程を想定する
2年で仕事はできるようになる。それでもなお、プレッシャーをかけ続けよ
これからまさにキャリアを築いていこうとしている若手の読者のみなさんへ、メッセージをお願いします。
アントレプレナーを目指すには、”原体験”が重要だと思います。原体験とは、悔しい、頭にくるといった負の感情のことで、それが足りないと事業の解像度が上がらない。世の中の課題を肌で感じることが重要で、日雇いアルバイトから見つけられることもあるでしょうし、普段の生活の中に転がっているかもしれません。「なぜこれができないんだ。おかしい」と強く感じた”原体験”こそが、事業の種になることもあります。何事にも愚直に行動し続け、アンテナを張り続けることをおすすめします。
そしてもう一つ、一定の仕事ができるスキルが身につくと、2年ぐらいで新しい任務でも一通りのことができるようになると思います。大事なのは、そこで手を緩めるのではなく、自分にプレッシャーをかけ続けることです。負荷がかかってない仕事をしていると、自分の力を出し切れていないため、世の中への罪悪感を覚えることがあります。笑 できるようになっても、なお、自らプレッシャーをかけて、共に世の中へいいインパクトをもたらしていきましょう。
代表・上田祐司からのコメント
ガイアックスがM&Aで事業拡大を進めようとしていた時、松田さんがギラギラとした目で現れました。その姿には「大きなことを成し遂げてくれそうだ」という気迫があり、新卒で入社した日から一目置かれる存在でした。
もちろん最初は、ビジネスや投資の知識はゼロに近かったはずですが、自分で調べ、考え、スピード感を持って動き、的確な仕事ぶりを発揮していました。
M&Aでは、株式の半分を取得するディールをまとめて自ら経営に入り込んだり、インキュベートでは次々と事業の買収・投資をリードしました。投資業務を進める最中で、アディッシュへ参画され、さらなる挑戦を今もなお最前線で続けられています。卒業された今もガイアックスコミュニティに関わりを持ち続け、私たちに刺激を与えてくれています。彼がこれからもさらに大きなことを成し遂げ、活躍されることを確信していますし、心より応援しています。