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地域主体、攻めのスタートアップ支援のリアル【スタートアップスタジオ協会イベントレポ】

最終更新: 2023年9月6日

スタートアップスタジオ協会の設立記念イベントが、4月12日に開催されました。
2021年7月に設立されたスタートアップスタジオ協会は、8社4自治体が参画し2022年4月より本格始動を開始しています。
株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役会長でありデライト・ベンチャーズ マネージングパートナーの南場智子氏と早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏を顧問に迎え、ガイアックスの執行役兼スタートアップスタジオ責任者の佐々木喜徳が代表理事を務めています。本記事では、同イベント内で「地域スタートアップエコシステムの可能性」をテーマに語られたパートの一部をお届けします。

【登壇者】
・仙台市 創業支援係長 Chief Startup Support Officer 白川裕也氏
・渋谷区 グローバル拠点都市推進室室長 田坂克郎氏
・北九州市役所 産業経済局地域経済振興部 スタートアップ推進課長 鎌田靖雄氏
・スタートアップスタジオ協会 代表理事/ガイアックス 執行役/スタートアップスタジオ責任者 佐々木喜徳氏

仙台・渋谷・北九州、各地域での「スタートアップ支援のリアル」とは?

まずお話しいただいたのは、それぞれの自治体がどのようにスタートアップをサポートしてきたのかについて。
約10年間、仙台市の職員として起業家支援活動に携わってきた白川氏。一般的に公平性を重要視する市役所の中においても、「選択と集中。尖っているところをさらに伸ばすことが重要」と語りました。また白川氏自身、スタートアップと行政や大企業をつなぐ際には自らが役割を担い、初回面談を取り付けることも。

白川 同じことをスタートアップがやると返信がないことも多々あるのですが、市からのメールとなると相手から何かしらの返信があったりします。スタートアップと役所や大企業だと、言語やカルチャーが違うこともあるため、ここを『翻訳』することが大切です。

渋谷区で起業家支援活動に関わる田坂氏は「残念ながら渋谷でも、まだまだ一般の人がスタートアップを知らない」と話します。認知がないためにオフィスが借りられなかったり、銀行口座が開設できなかったり、当たり前のことができない。そこで渋谷区ではコンソーシアムを発足し、企業と一緒にスタートアップフレンドリーな銀行や不動産、法律事務所などを作り、実際にエコシステムを形成したと言います。

田坂 スタートアップは成長してすぐに次の場所へ行くので、5年の賃貸契約で入居し続けることはとても珍しいのです。そこで、不動産企業と『居抜きの転入転居ガイドライン』を作成しました。これはスタートアップがオフィスのオーナーさんと揉めることが多いため、スムーズに転居できるための指針になるものがあったほうがいいだろうと考えたことが背景にあります。

鎌田 そもそも役所の職員は、企業の中身がわからない。わからない中で支援をする立場なので、自分たちから歩み寄り、スタートアップのやろうとしていることやサービスについて根掘り葉掘り聞かせてもらっています。

北九州市では新たな都市ブランド策定をきっかけに、市内の民間企業や理工系の大学と連携し、スタートアップ支援を2021年度より開始しています。2024年度時点で市内に100社のスタートアップが活動している状況を作ることを目標にしているそう。
その中で、鎌田氏は「スタートアップの一員になったつもりで営業をしている」と語ります。

田坂克郎氏

どのようなスタートアップを生み出したいのか?

次のトピックは、各自治体ではどのようなスタートアップを生み出そうとしているのかについて。

仙台市では、東北地域全域を対象として集中支援プログラムが実施されています。2017年からの5年間で、約141社のソーシャル・スタートアップの支援をしてきました。

「社会課題解決を目標とすることはスタートアップでは当たり前ですが、それをもっと尖らせていきたい。地域の課題だけでなく、他の地域の課題、さらには世界の課題を捉えて、エコシステムとして応援していきたい」仙台市で創業支援に携わる白川氏はそう語ります。

白川 2021年4月から仙台市では新しい杜の都の都市像『The Greenest City(グリーネストシティ)』を掲げています。緑が溢れているだけではなく、バイオや健康や環境、防災など緑から連想されるあらゆる産業をどんどん伸ばしていきたいと思っています。東日本大震災のあと、東北地方は多くの方々に応援や支援をいただきました。その恩を強く感じているので、社会課題解決のロールモデルを作って他の地域の困りごとに少しでも貢献できるような活動を考えています

仙台市とMAKOTOキャピタルが連携しているTOHOKU GROWTH ACCELERATOR(以下、TGA)。このプログラムにメンターとして参加した佐々木はこのように話します。

佐々木 TGAの中で、アイデア段階のところからアクセラレーターを始めようとしているという話を聞いて感銘を受けました。エコシステムを使いこなすような起業家を生み出すには、ゼロイチの手前から行政や自治体と一緒に支援していくことが大事だと改めて思いました。

「海外の優秀な人材や投資家など、多様な力がないと世界に羽ばたくようなスタートアップは生まれないのではないか」渋谷区でスタートアップ支援に携わる田坂氏は、そう考えています。そこで渋谷区ではスタートアップビザを発行し、海外のスタートアップをサポートする部署を立ち上げました。

田坂 海外の優秀な人材を入れたりすることによって、ハイブリッドなスタートアップが生まれる状態を作っていきたい。CEOは海外の人だけど、ファウンダーは日本人とか。そういう世界を作るお手伝いをしていきたいですね。

もともとモノづくりが盛んに行われてきた北九州市。北九州市でスタートアップ支援に携わる鎌田氏は「環境やロボットの分野に力を入れていきたい」と話します。

鎌田 北九州市では就職を機に若者が市外へ出てしまうことが課題としてあります。そのため、スタートアップが若者にとって魅力的な仕事の選択肢になるような成功モデルができることを目指しています。

鎌田靖雄氏

地域のスタートアップエコシステムの課題と可能性とは?

各地域では今まで、どのように周りを巻き込みプロジェクトを進めることができたのでしょうか。次に話題が移ったのは、地域のスタートアップエコシステムを作る上での苦労や、今後の課題についてです。

白川 10年前に僕らが仙台市で起業支援を始めたときに、『日本一起業しやすいまちを作る』というビジョンを作りました。振り返ってみると、そこから仙台や東北をどんな状態にしたいのか考え、言語化して資料を作り、地域の経済団体や市議の方にピッチをして回ったのが一番の苦労だったと思います。だから、やっていることはスタートアップの人とあまり変わらないと思うんです。

最初はスタートアップやベンチャーに対する周囲の理解もなく、なかなか話を聞いてもらえなかったと、白川氏は当時を振り返ります。

白川 パッションはすごく大事だと思っています。熱量を持ってやり続けてきたことで徐々に理解を得られるようになり、エコシステムと言われるような地域の雰囲気が作られてきたのではないかなと思います。

鎌田氏は、地方ならではとも言える課題についてこのように話します。

鎌田 都市と比較すると、地方ではスタートアップが生まれにくい環境であることも事実。スタートアップを支援する枠組みはしっかりとあります。一方で、それをうまく機能させるために足りないことも多いのです。取り組んでいる分野が環境やロボットなどの研究開発型になると、さらに時間もかかってくる。東京で頑張っているスタートアップにも北九州へ足を運んでもらい、彼らを我々の支援体制で応援することもしていきたいです。

自身が仙台のスタートアップに在籍していたこともある田坂氏は、仙台のスタートアップコミュニティを、「数は少ないけれど、とても固い絆で結ばれていてファミリー感があった」と振り返ります。地方ではプレイヤーが生まれにくいという課題があったけれど、逆に渋谷区では、プレイヤーが多すぎて一体感を出すことが難しい。また、行政的な視点から見た課題にも触れました。

田坂 渋谷区でも他の課に行くと、『スタートアップって何?』と言われるんですよ(笑)。若いスタートアップの実証実験をやろうとして、違う課が少しだけ時間を使ってくれたらできたことが、そもそも認識されていないことによってできなかったりもするんです。これは文化を作るような仕事だと思うんですけど、本当に難しいなと思っています。

佐々木 東京だと人口が多いので、何もしなくても起業家が生まれてくる。地方こそ母集団が少ないだけに、ちゃんと起業家を育てなければいけない。そこでスタートアップスタジオの仕組みや、我々のようなスタートアップスタジオ事業者が貢献できることはあるのではないかと考えています。

白川裕也氏

ーー地域から起業家へ解決してもらいたい課題を提案することはあるのでしょうか。

白川 例えば神戸市ではUrban Innovation JAPANという、日本全国の自治体の課題とスタートアップ・民間企業をマッチングするオープンイノベーション・プラットフォームを作っています。仙台市でもコロナをきっかけに、窓口の混雑や避難所での入退館の際に密が起こりやすいなど、行政としての課題が出てきました。そのような課題に対して全国のスタートアップを募集して、課題を出した方とマッチングして実証実験まで持っていくということをしています。

数多くの地域独自の課題に取り組む起業家に出会ってきた佐々木は、このように話します。

佐々木 スタートアップスタジオとしてメンタリングや支援をしなければいけないのは、マーケットサイズを検証せずに『この地域課題を解決したい』という想いだけで始めてしまい、ビジネスとしてかたちにできなかった人たち。想いはあっても何もないところから一緒に壁打ちをしたり、伴走していくことが重要な役目だと思っています。

また、地方だからこそできる事業検証もたくさんあると、ポジティブな面についても話します。

佐々木 地方だと簡単にその地域のキーマンへアクセスすることができたりします。たとえば都内だと、末端の担当者にしかアクセスできず話が進まないケースでも、地方に行くとどんどん人を紹介してくれる。そのため、あっという間にすべてのキーマンと出会える環境があります。実証実験やアーリーアダプターを素早く見つけて検証するという意味では、かなり動きやすい環境だと思います。

佐々木喜徳

スタートアップスタジオ協会が目指すもの

佐々木 スタートアップスタジオ協会では、スタートアップに挑戦するハードルを下げ、挑戦する人たちを増やしていく未来を思い描いています。また、スタートアップの成功確率を高める活動のために、スタジオ事業者同士で情報共有をしながら、より強力に起業家の支援に取り組んでいきたいと思います。
»スタートアップスタジオ協会

スタートアップスタジオ協会の設立イベントでは、本セッションの他にも、約4時間に渡り、幅広い議論が交わされました。

スタートアップスタジオ協会の代表理事を務める佐々木は、ガイアックスでスタートアップスタジオの責任者も務めています。「アイデア出るまで帰れません」イベントも各自治体の方々と実施中です。気になる方はTwitterをフォローしておくのもいいかもしれません。

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佐々木 喜徳
組み込み系ベンチャーやC向けインターネット関連業務の経験を活かし、フリーランスエンジニアとして独立。 その後、フィールドエンジニアリング会社の役員経て2007年にガイアックスに参画。スタートアップスタジオ責任者として起業家への事業開発支援や投資判断を担当。スタートアップスタジオ協会を立ち上げ、スタートアップ挑戦者の裾野を広げる社会活動に取り組んでいる。
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