偶然の連続から、会社やそして社会の変革へ繋がる出来事が起こる。
Gaiaxには、トップダウンで文化が変わるというよりも、社員が上げた声を無碍にしない文化があり、社員一人一人がムーブメントメーカーとなり、会社の制度や文化を形作っています。ダイバーシティの課題のひとつである「ジェンダーギャップ」もそのひとつ。
「男性と女性の生き方・働き方」をどう考え、どう変えていくか?
シリーズで、その変革の様子を追っていく「ジェンダーダイバーシティ」シリーズ、ご覧ください!
日本では、2020年男女平等ランキングが153か国中121位と過去最低をマークしました。このランキング順位は、先進国の中でも特に低い数値です。
それに関連して、男女平等ランキング1位のアイスランドでは、女性役員の比率が45%前後に対し、日本では6%しかないと言われています。
2020年9月にジェンダーギャップについて、ガイアックス代表執行役社長の上田とアディッシュ代表取締役の江戸浩樹さん、同じくアディッシュで取締役を務める杉之原明子さんとで、「経営層のジェンダーギャップ」について話される機会がもたれました。
アディッシュはガイアックスから、カーブアウトし、2020年3月に上場した企業で、杉之原さんは女性役員として取締役を努めています。
※カーブアウト :カーブアウトとは、社内の事業部を会社から切り出し、社外の別組織として独立させることを指します。
参考記事:カーブアウトの意味とは?ガイアックスから独立した5会社の実例も紹介
これまで、ガイアックスもアディッシュも、フリー・フラット・オープンな会社文化の醸成や 働くひとりひとりが自律した働き方を推進する組織づくりに注力してきました。ダイバーシティ&インクルージョンにおいて取り組む必要がある数ある観点の中から、第3回目のジェンダーダイバーシティシリーズは、両社において未開のテーマ「経営層のジェンダーギャップ」に関して、アディッシュの取締役・杉之原明子さんをインタビュアーに行われた対談の様子をお伝えいたします。
こんにちは、アディッシュ株式会社で役員を務める杉之原明子です。
私自身、新卒でガイアックスへ入社し、現在はアディッシュで取締役として働いています。
ガイアックスに入社してから現在まで、性別に捉われずに働いてきました。
だけれど、経営層に行くに従ってジェンダーを意識せざるを得ない、周りが全員男性で女性が私1人のようなシチュエーションを経験しています。
だからこそ、このジェンダーギャップというテーマをいつか取り上げたいなと思っていました。
「経営層のジェンダーギャップ」というテーマについて、女性役員がいないガイアックスと私が役員を務めるアディッシュの上場企業である2社それぞれ、この議題に対して多面的にとらえられていなかったり、議論が成熟していなかったりする中での雑談になることを了承、また、読んでいただいてる皆さまにご理解いただいた上で、代表のお二人に ざっくばらんにお話をお伺いいたしました。
今回の対談に参加した代表2名
上田 祐司
株式会社ガイアックス 代表執行役社長
1974年大阪府生まれ、1997年同志社大学経済学部卒業。大学卒業後は起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、24歳で起業。30歳で上場を果たす。ガイアックスでは、「人と人をつなげる」のミッションの実現のため、これまでのソーシャルメディア事業に加え、シェアリングエコノミー事業や関連する企業への投資を強化している。
一般社団法人シェアリングエコノミー協会の代表理事を務める。
江戸 浩樹
アディッシュ株式会社 代表取締役
2004年に株式会社ガイアックス入社後、インターネットモニタリング事業、学校非公式サイト対策事業、ソーシャルアプリサポート事業の立ち上げを経て、2014年にアディッシュ株式会社を設立、代表取締役に就任。アディッシュプラス株式会社取締役、adish International Corporation取締役会長、一般財団法人全国SNSカウンセリング協議会理事(以上、現任)。東京大学農学部生命化学・工学専修卒。
ジェンダーギャップの本音
杉之原: いろいろなイベントでテーマを取り上げられると「ドキドキするね」や「なんか難しくてなかなか発言が出来ない」というコメントがされがちな「経営層のジェンダーギャップ」という、このテーマに関してどんなことを思われるのか、まずは聞いていきたいと思います。上田さん、いかがでしょうか?
上田: そうですね。
ダイバーシティというのはすごく重要だなと思っているんですけれど、「ジェンダーギャップを解消しなければならないな」というプレッシャーをすごく感じています。
杉之原: プレッシャーですか?
上田: もっとダイバーシティーがある形にしたいとは思います。
もちろん女性だけではなくて、そもそも「性」だけでなく、国籍の問題もありますよね。
ガイアックスでのジェンダーダイバーシティの歴史 ー 女性副社長の時代
杉之原: そういったダイバーシティーの観点は、いつごろから芽生え始めたんでしょうか。
上田: ガイアックスの創業時は、山根麻貴さんという副社長の取締役がいました。その方が辞められてから、女性役員がいなくなってしまったことは気になっていました。
杉之原: 山根さんが辞めてから、何年ぐらいがたったんでしょうか。
上田: 10年ちょっとくらいですね。
杉之原: その10年の間、役員は全員男性だったんですか?
上田: 山根さん以降は、そうです。
杉之原: 江戸さんが入社したときは、いかがでしたか?
江戸: 僕が入社したのは16年前で、その頃は山根さんがまだいらっしゃいました。
面接ももちろんしてもらいましたし、当時新卒だったので、結構、山根さんとお話しした覚えがありますね。
杉之原: 上田さんに聞いてみたいんですけれど、山根さんとの一幕で印象的だったシーンってありますか。
上田: 世の中にはすごく男性らしく仕事をする女性もいると思うんですけれど、山根さんは少なくとも男性らしい感じではない方でした。
たとえばあるパッケージがあって「これを50万円ぐらいで売ろうか」みたいな話があったんです。
けれど予算は、5,000万円。「これ、どう100件売ろうか」といった話を会議でしていても、営業責任者なのにその会議に参加しないんですよね。
「山根さん、会議に参加しなくていいのかな」と思ってパソコンをのぞいたら、5,000万円の見積書を書いてたんです。
100件売るのではなく、1件決めるぞ、という感じで仕事をしてました。すごい直線的な方なんですよね。結論からサクっと取るという感じで、現に取られる方なんです。
冗談抜きで山根さんからは色々学びました。
杉之原: 江戸さんから見て、当時の新卒から見た経営陣は、ジェンダーで見ていたかはわからないですけれど、いかがでしたか?
江戸: ジェンダーで見た覚えは正直ないんですけれど、割と個性的な人が多くいました。
僕が入った当時は、社員が多分10数人くらい。それぞれ結構変わった人が沢山いて「山根さんは別格だ」と言われているのは新卒ながらに感じましたね。
この変わった人達に別格って言われて、どういう人なんだろうとは思っていた印象があります。
僕たち新卒は、ちょうど男性3人、女性3人だったんですよね。
だから、同期はジェンダーという意味では、バランスを重視しながら選ばれたのかな?といった感じが、ちょっとあったかな。
上田: 新卒採用の現場も、特に男女気にせず採用していましたね。
結果的に、バランスの良い時代もあれば、ほぼ全員男性の時代やほぼ全員女性の時代もありました。
杉之原: 私はバランスの時代でしたね。男性2人、女性2人でした。
ガイアックスでの女性による意見交換会
杉之原: ちなみに、山根さんが退任されてから、どういった感覚が足りない、こういう感覚が欲しいなど、ありますか?
上田: そうですね。多様な意見を取り込もうとしているんですけれども、やはり女性がいないことによって気づかない事があるんじゃないだろうか、というのが分からないことが怖いですね。
特に明確にこれが足りない、とは、人に説明しづらいですね。
杉之原: その感覚を持っているからなのか、2020年にガイアックスの中で女性に集まってもらって、意見交換会の場をもったと伺っています。どういった内容で意見交換会を実施されたのでしょうか。
上田: そうですね。
ガイアックス関係のメンバー5、6名くらいに集まってもらって、女性だけでガイアックスのジェンダーギャップについてどう評価して、どうしたらいいかということを話し合ってもらいました。
退職直前の方にも入ってもらっていました。そういう方の方が参考になる意見もありますし、ある意味ずけずけと言ってくださるので。
杉之原: その会議を、話し合ってもらおうと思った「きっかけ」はなんだったんでしょうか。
上田: ここ数年「ジェンダーギャップをどうしようか?」という話は、何度か議論をしていましたが、議論をしている経営会議のメンバーが全員男性だったんですね。
この会議に女性の方にも参加してもらって、いろいろご意見を言ってもらっても良かったのですが、やはり会議って、1人だけ入って発言するとなると、なかなかコメントが難しいと思うので、女性だけの会議の場を設定して意見を言っていただいた方がいいのかなと思いました。
杉之原: 実際にやってみた結果、今どういう感想をお持ちですか。
上田: その場であったのは、「ガイアックスはそこまで男性女性という壁がなくて結構自由に働けています」という意見でした。
実際、事業部長クラスには女性の方も多くいらっしゃって、男女比は結構悪くないと思うんです。
ただ、全体的にフラットな組織であるが故に、その事業部長で全ての権限を持つことが出来てしまうので、誰が事業部長より上の役職に就きたいと思うのだろうか、誰が役員になりたいと思うのだろうか、という状況だということです。
たしかに、僕自身、その話を聞いて、落ち着いて考えると、そういった意味では、経営陣に行きたがる人なんていないんじゃないだろうかと思わされました。
正直、女性だけではなくて男性も含めていないんじゃないだろうか、ということがひとつ、今日時点の分析としてあります。
もうひとつは、女性の皆様からのコメントとしては、今さらガイアックスが「ジェンダーギャップについて考える」と言っている時点で少し違和感があって、今日時点で、すごくジェンダーに起因する問題点があると感じているわけではないし、むしろ、このタイミングで目指すならもう少し幅広いダイバーシティーで目指した方がいいんじゃないですか、という意見を頂きました。
杉之原: そこから、新しい発見ってありましたか?
上田: そうですね。いろいろ貴重な意見や視点があり、学ばせてもらいました。
ただ、一番の感想は、働きにくいとかそういったところがないだとか、女性だからどうのこうのっていう問題はなくて女性も働きやすいということ、つまり、女性ということに全然意識せず皆が好き勝手働きやすいということを言っていただいたのは、発見というよりも「ほっ」としました。
杉之原: そこを私もすごく気に入っていて、ガイアックスの「フリー・フラット・オープン」の文化と、多くの子供を持つお母さんたちが働いていて、自由度がさらに増しているというのを感覚で思っています。
意見交換会の詳細はこちらからご覧いただけます
「女性活躍」の言葉に違和感はある。だけど、女性が生きにくい世の中は間違っている。
アディッシュ、働きやすさと偏りについて
杉之原: アディッシュも2014年に会社を設立してから、働きやすさみたいなところに主眼をおいて様々な制度を作り、自分で声を上げれば自分の働き方を自分で作れる、というマインドで会社を作ってきました。
ただ、現実問題として、従業員は女性が61%いるんですけれど、部長以上の役職の女性は今14%しかいない状態です。
だから、働きやすいということと、経営層の女性の比率っていうのは、私が4年間見てきても乖離があるなと実感しています。
そのあたり、江戸さんは感じたり考えられたりしていますか。
江戸: そうですね。
アディッシュの従業員は自然と半数以上が女性になっていて、最初に杉之原さんという女性が経営陣にいたといったことも大きいんだろうなと思っています。
けれど、確かに部長陣や役員陣になると、その比率が如実に下がっているのは、結構問題だなと思っています。
男女差をすごく意識していて、具体的に手を打ったかって言われると、そういった事は正直出来ていないんですけれど、課題感はあります。
一方で、例えば事業部長につくマネージャー陣や部署の中のマネージャー陣は結構活躍している女性がすごく多い印象もありますね。
上手に物事をさばいて進めていく女性の層が、アディッシュ内ではすごく多くなってきているっていうのは感じます。
例えば、1回お子さんを育てられてから戻ってきて、また頑張っている女性も増えてきているので、それはとてもいいなと思っています。
ただ、その次どうすればいいのかは課題ですね。
杉之原: 「これ課題かもしれないな」って、思うようになったきっかけはありますか。
江戸: 部長陣の会議みたいなのをやっているんですけれど、ちょっと気を抜いた時にふと見ると「あれ男性しかいない」といったことがあって、そういった時に、これはちゃんと意識しておかないとそうなってしまうんだなと思いますね。
僕もこの議論がされていない、といったことを思っているわけじゃないんですけれども、やはり何か偏りがあった時に、自分たちが話していない、見えていない、あるいは見逃してしまっているなにかがあるんじゃないだろうか、という不安感があります。
世の中でもダイバーシティーがあればあるほど、そういった視点が高まる、という事が研究されていると思います。
ただ、そういった不安みたいなものは、結構感じています。
放っておくと、5年10年経過した時に偏ったものになってしまっているんじゃないだろうかという恐れがありますね。
杉之原: そうですね。
女性は昇進したいのだろうか?
杉之原: ガイアックスの先ほどの話を聞いていても、アディッシュの5年間を見ていても、放っておくとメンズ体制になってしまうなというのを感じています。
意識するとしたら、どういった案がありそうですか。
上田: この話題の時に必ず出て来るのが、例えば昇進する。
あまり当社で昇進という単語使ったことがなくて 違和感のある単語なんですけれど。
昇進するのに一定のラインがあるけれど、女性の方にはそれをもっと緩和すべきなのか、という話がよく出てきますよね。それはやはり難しい問題だなと思います。
杉之原: 緩和しないと候補者がいないな、という印象ですか?
上田: 今日時点でギャップが出来ているということは、そうなのかもしれないと思います。
そもそも、その一定のライン自体は男性が男性的に設定しているもので、女性がそんなことに全く興味がないというだけなんじゃないだろうか、という疑惑もありますよね。
明文化されているわけでもないですから。
江戸: そうですね。
上田: そこはもう、悩ましいですよね。
杉之原: 確かに別で議論していた時に、女性はポストの名前にあんまり興味がないという話が出ていましたね。昇進という言葉に変換されると一気に興味を失ってしまうと。
女性は、本質的にどういうことが求められているのかや、自分の人生とのバランスといった、多様な視点から統合的に判断しているので、ポストだけでは会話ができないといった話を聞きました。
上田: それはそうかもしれませんね。
杉之原: ただ、一方で経営層に女性がいないっていうのは気持ちが悪いという話も聞いています。
だから、経営層に女性がいた方がいいけれど、それは自分ではないという感じですかね。
ここをつなげるのは少し難しいのですけれど、それぞれの意見を聞いたことがあります。
ちなみに仮に社内で役員まで育成していくとなった場合に、この人にこういうチャンスをあげていこうというのは、性別に関わらず、各社検討されていますか。
上田: 検討とは異なりますが、いくつかの体験はしていて欲しいと思っています。
1つ目は自分のチームを持って、そのチームでなにか物事を成し遂げる経験。2つ目は、経営陣に入っていくので、一般的な採算や会社に必要な財務的な知識を持ってほしいということ。最後3つ目は、今がどうなのかという事よりも、役員陣はどちらかというと未来に向かって、その未来自体をどういう未来にしたいのかといったところから話すものだと思うんですね。「向かう方向を決めて、どう進むか?」という話ではなくて「まずどこへ行きたいの?」といったことを会社として、組織として話していける人。
男女問わずなんですけれど、その3つくらいものがあるといいんだろうなと思います。
そういう体験を積んでもらえると、その役割を担える人がそのポストにつながる、という話につながるのではないだろうかと思います。
現在の延長上での「女性役員」は、あり得るのか?
杉之原: 私は、普段の業務の延長上で、自分事の範囲が広くなってくるうちに役員になってしまったというのがいいなと思っていて。
そういった意味では、ガイアックスは裁量権が預けられているので、仕組みや雰囲気自体はかなり進んでいるのかなと思います。
「自分事が広くなったら役員になる」というような、イメージはお持ちですか。
上田: 自分事が拡大していくと、ガイアックスの場合は「カーブアウトして上場しました」といったパターンの方が多いんですよね。
ガイアックスの経営陣に行くという のは、自分事とは違う何かを話し合うといったニュアンスが少なからずあります。
もうひとつは、その自分事が拡大してポジションが上がるという考え方もあるんですけれど、そもそも取締役の方は社外の方が担当されていることが多いですよね。
ガイアックスも2005年に上場して、おそらくその時から監査役も入れると、過半数は社外。2006年位には既に約8割は社外取締役といった構成で ずっと回してきています。
ですが、グループの方針を決める執行サイドの意思決定機関、仮に経営会議という名称だとすると、その会議のメンバーは、本当に沢山の事業部を掌握している人が集まる必要があるのかというところは、なかなか難しく、どう判断したらいいのかわからないところです。
取締役会は、どちらかというと執行している人の意思決定の場というよりは、オーナーである株主に代わって意思決定する場なので、株主さんの感覚が分かれば社内だろうが社外だろうがどちらでも構いません。
そういった意味では、経営会議は社内なので、社内の人であるべきだろうという気持ちもあれば、一方で、よりダイバーシティーのある感覚の方が必要なのかもしれないというような、もしくは、事業部を沢山掌握しているわけではない方でもいいんじゃないだろうか、といった感じはあります。
杉之原: 今回、9月にその経営会議という会議体の、構成メンバーを少し変更されるという話を聞いたんですけれど、その辺は何か狙いがあったんですか。
上田: 1つの狙いとしては、もう少しダイバーシティーのある視点を入れようということで、必ずしも役職が上の方だけが集まるといった枠組みではないようにしましたね。
杉之原: どういったメンバーを新しく迎え入れたんでしょうか。
上田: 女性でいうと、事業責任者をされている荒井さんという方に入っていただきました。その方は、どちらかというと事業としてではなく、パーソナリティーとして、働いている人が幸せかどうかや、働いている人がその人らしいか、という視点に興味を持っている方で、そういったところが とがっているので、入ってもらったらいいんじゃないだろうかと思い経営会議に入ってもらいました。
普通だったら、すごいハレーションが起こると思うんですけれど、「なんで俺じゃなくてアイツなんだ」というようなことも、あまり感じません。
ガイアックスの場合、「役割をになっている人が集まる」という感覚がある位で、仕事で結果を出している人かどうかや、大きな組織を持っている人以外が入ることに対して、あまり誰も何とも思わないんですよ。
杉之原: そういう意味では、先ほどおっしゃっていた仮に誰かを引き上げるとしたときに基準をちょっと下げなければならないんじゃないか、というような議論がありましたけれども、基準自体が変化している感じなんでしょうか。
上田: そうですね。
やはりダイバーシティーの観点で選んでいる要素はあると思います。
杉之原: 経営以外の指標でも経営執行側の面ではそういった、新しい方を経営会議に迎え入れるチャレンジをされていますけれど、株主サイドの取締役会においては、今後の構想等を考えていらっしゃいますか。
上田: 取締役会の選任をしているのは私ではなくて、指名委員会や、それこそ株主総会なので僕の手の及ばないところもあるのですが、現実的には、ディスカッションには参加していて、ダイバーシティーという観点は大切にしています。
黒崎 守峰さんというシリコンバレーに沢山投資をされていて海外事情に詳しく、いろいろと最先端の情報を教えてくださる方もいれば、上場企業経営者である速水 浩二さんは、昔からずっとメンターをしてくださっている方で 元々銀行出身なので金融も経営もすごくお詳しい。
経営の側面だけでなく、石川 善樹さんというどちらかというと学者的視点もお持ちで、また、マインドフルネスなどの方面にすごく詳しい方や、藤田 隆久さんという中小企業やベンチャー企業の現場に優れている方にも来ていただいています。
ですが、もっと「性」という意味で、ダイバーシティーは社内よりコントロールしやすいはずなので、今後はもう少し意識した方がいいかもしれないなとは思っていますね。
杉之原: 社内よりもコントロールしやすいというのは、今いらっしゃる皆様のように多様な切り口で、プロフェッショナルに参画いただくという意味合いですか。
上田: 本来社内であれば、それなりに実績を上げてこられた方や、組織を掌握している方から選ばなければならないんだと思います。
だけれど、取締役会はどなたにお願い出来るのかというと、言いすぎですが、そういった社内での調整は不要なので、本当はもっと可能性があるのだと思います。
「経営用語」のジレンマ
杉之原: 女性を執行側や取締役サイドの経営層に迎え入れるにあたってこういった情報が欲しいといったものはありますか。
江戸: 欲してるというかどうかは分からないですけど、あまり気にせずに発言してくださる方がいいなという気はしますね。
変なイメージですけれど、マイノリティを代表するような所もあると思いますので、そういう方が発言しやすい雰囲気を作る事も大事ですけれど、気にせず発言してもらえる方が良いという気がしますね。
仮に、会社の中で自分が部署を持っているではなく、こうした方がいいんじゃないかといった意見を思ったら素直に言えるような雰囲気ですよね。
そういったものが組織の会議体としてもあった方が良いと思いますし、個人としてもある方が良い印象を感じます。
上田: 欲しいものというと少し違うのかもしれないですけど、個人的には小難しい単語は嫌いではないのですが、小難しい単語がそもそも女性に嫌われているような気がしています。経営の単語というと、よく3文字の英語があると思うんですけれど。
江戸: 沢山ありますね。
上田: そういったものが嫌われているのではないかな、と個人的には思っていますね。
男性の方が理数系の割合は大きいと思うんですけれど、一般的に男性の方がそういった単語によく食いつきますよね。
数字の話も究極的に言えば「無駄はなくそう」「倹約しよう」といった話に他ならないんですよね。
そういった平易な言葉を使う方が、女性には「聞いてもいいかな」とも思ってもらえるような気はしますね。
杉之原: いいですね、平易な言葉。
上田: 言葉が分からないと話し合いのテーブルに座ってはいけない感じが今日時点でありますよね。
杉之原: ありますし、ありましたね。
特にガイアックスの経営会議は、当たり前ですけれど、やはり事業をどうしていくのかだったり、その事業を分社化・会社化するのかであったり、あと投資するかどうかであったり、もう全然違う国の話だなと思っていました。
そういった単語が分からない私は、ここに座っていてはいけないんじゃないだろうかとは思いました。
結局やっていること、やりたいことは、私たちの船がどこに行くかだとかそういった話とかだから、本当は自分たちのチーム運営とあまり変わらない事をやっているんですよね。
そのつながりに、どういった言葉を使うのかというのは、興味深い視点ですね。
「経営層におけるジェンダーギャップ」について経営者の悩み
杉之原: 経営層におけるジェンダーギャップに関して、他になにかもやもやするものはないですか。
江戸: みなさんどうやって考えているんだろうな、というのはもやもやしますね。
上田: 最近は子供が生まれた後に復職する率も、世の中 全般的にも改善してきているので、結果的にジェンダーギャップが解消しやすい環境になりつつあるのかなとは思います。
昔は30才で全員辞めていたので解消のしようがなかったと思うんですけれど、やはりその点で今も不利なように感じますね。
江戸: 不利というのはどういう意味でしょうか。
上田: やはり、育休で1年、2年休まれる方や、その育休を2回とられる方もいますよね。
そのなかでどうすればいいのか。とはいえ、我々の顧客は約半数が女性で、ガイアックスのメンバーも女性が半数いらっしゃるので、体制としてチームを組んでおかないと大変なことになるんじゃないだろうかという懸念があります。
杉之原: 今の話を聞いていて、今までは女性が休みを取っていたと思うのですが、今後は法律上男性も休みを取るというようになっていく。ポスト的な基準と荒井さんのような切り口としての基準のどちらか、もしくはどちらも基準として存在して良いというような会話をしていくことが必要なのかなと思いました。
誰もがキャリアの中断が当たり前になったり、副業したりして、また帰ってくることもあると思いますし。
そう思うと、いかに個として立っていくのかが、個人としては凄い大切なんだなと思いました。
江戸: 以前はヒエラルキーチックにこのポストと決めて、段々と昇進するという感じでした。そうなると、おそらくその間で休みがある人は不利になり、将来が狭まらざるを得なくなってしまうんですよね。
そういった要素もありますが、それ以外の「こういった視点が欲しい」や、ある観点のものを突き詰めるような経験をした方が入るようなルートがあると将来が広がりやすいですね。
ジェンダーギャップの根源?「弟子リスト」の取り組み
上田: 新型コロナウィルスの影響で飲み会の数が減っていると思うんですけれど、それはポジティブなことなのかもしれないと思っています。
男性の友達の比率が多いのは男性ですし、女性の友達の比率が多いのは女性ですよね。
人類共通で、一般的に同性の友達の方が多いと思うんですよ。
友達だから引き上げるといったようなことはないと思いたいですが、よく知っている人と知らない人では、よく知っている人の方はリスクが少ないと思ってしまいますよね。
江戸: 会話量が多いですからね。
上田: 「社外取締役に友達いませんか、知り合いはいませんか。」と言われても、やはり僕は男性だからよく知っている人となると男性の方が多くて、一緒に食事や日頃から交流しているという観点で分かり合っている女性が何人いるだろう、という感じがあります。
そこから「紹介する人」が男性になっている、というループがいたるところで引き起っていると思います。ですが、最近新型コロナウィルスの影響で誰も飲みにいきませんし、誰も友達が出来ていないんです。
このループを断ち切るという観点では、友達が出来ていないということはポジティブなのかもしれないなと思います。
そのバイアスが評価できないんですけれど、社内の話に置き換えても、その人をよく分かっているから引き上げやすいというのはあるんじゃないでしょうか。
江戸: 社内外問わず、結構ありそうな気がしますね。
上田: 今日時点でやはり男性中心的な所はひっくり返らないし、今日時点で女性中心であっても同じくひっくり返らなかったんだろうなと思いますけれど。
江戸: そんな感じがしますね。
杉之原: 私は今、そこを見える化することにすごく興味があります。
社会的に見える化するというのは難しいんですけれど、社内で見える化すると、平坦な言葉で言うと「管理者候補リスト」のような。
それぞれの役職の方が、それぞれ5年後や10年後にこの人に引き継ぎたいっていうリストが既に偏っているんじゃないでしょうかと思っていて。
上田: なるほど。
江戸: 偏ってそうですね。
杉之原: 偏っているんですよね。
たとえばアディッシュだと、今30人程管理職がいるので、30人それぞれが「引き継ぎたい人リスト」を作った時に、そのリストの男女バランスで既に男性比率が高いんですね。
アディッシュは30人いる管理者の内80%くらい男性ですので、「引き継ぎたい人リスト」、海外では「弟子リスト」と言うみたいなんですけれど。
その「弟子リスト」に載っている人が既に80%程男性なのではないでしょうか。
上田: なるほど、それはありそうですね。
杉之原: 社外役員をお願いする時も、皆さんの人脈をたどってアディッシュも探した経緯があります。
上田: その時点で、「そういえば男性紹介されたな」みたいな感じでしたか。
杉之原: そこはもう、お聞きした皆さんの「友達リスト」が完全に男性ばかりということなんでしょうね。経営層は、そもそも男性が多いですし。
一方で、私自身は、出会った当時契約社員だった女性を5年かけて部長に上げてきたんですけれど、やはり5年や10年意識を向ければ男女問わず会社を一緒に作れるなという感覚を持てています。
その「弟子リスト」を意識するということと、5年10年で育てきるということこそが、現実問題として、一番大切なんじゃないだろうかと思います。
上田: 確かに少なくとも、今日時点で強引に業績気にせず男性の上から5人、女性の上から5人を昇進させるぞ、 というのは強引すぎると思いますけれど、「少なくとも『弟子リスト』は男女半々で提出してください」というのは妥当な気がしますね。
江戸: 妥当そうですよね、リスクがないですし。
上田: 社員比率が男性6割、女性4割ならば、「弟子リスト」も同じ比率でいてほしいですよね。
江戸: そうあるべきですよね。
杉之原: 感覚値なんですけれど、おそらく半々だと少ないんですね。
なぜなら女性は先ほどあったとおり、どうしても長期の休みを取りやすいんです。
アディッシュだと女性が6割なので、「弟子リスト」も女性が6割で男性が4割なんですけれど、経営層に行くと女性が30%で着地するというような。
江戸: そうなんですよね。
杉之原: ちなみに、江戸さんの弟子リストは今どうなっていますか。
江戸: 前は結構女性がいたような気がするんですけれど、僕の弟子リストは今男性ばかりですね。
杉之原: 上田さんの弟子リストはどうですか。社外もカウントして構わないです。
上田: 弟子というと怒られそうですけれど、例えばナターシャさんとか、例えば僕のラインではないですが、荒井さんとかももちろん伸びてほしいなと期待しています。
もちろん男性でaini(旧:TABICA)責任者の原田さんもいますけれど。
杉之原: いいですね。
ビジネスの視点がある女性の希少性
上田: また少し話が変わるんですけれど、そういった中、ビジネス的視点で見れば女性の希少価値が凄くあるわけじゃないですか。
本来ひっぱりだこになるはずで、それを武器に出来ると思うんですけれど。
正直、単純に男性に比べて、男性社会であるがゆえにというのがまた背景にあると思うんですけれど、女性の方は本当に先ほどの「取締役ってどう?」と聞いても「どうでもいいや」と返される方が多いと思うんですよね。
結構ビジネスをバリバリやっていて将来楽しみだなと思っていても、「興味ないから」という方もいらっしゃいます。
ガイアックスでも、今日時点で現に山根さんも全くビジネスに興味ありませんし、この人100年に一度の天才と思った蔵田さんもすっかり自然生活に身を置いていらっしゃる。
それも個人的には羨ましいなと思うんですけれど、「私もういいや」や「もう満足した」みたいな事が傾向としては多いですよね。
杉之原さんにまずそういった傾向がありますかというのと、それに対して我々はどうコミュニケーションをとればいいんでしょうということ。あとは会社としてはどういう風にすれば興味を失ってもらわず興味を持ってもらえますか、という事をお聞きしたいです。その辺を含めてどう思いますか。
杉之原: 先ほど名前が出た蔵田さんは、もともと江戸さんの部下で私の上司でした。
上田: 男性っぽい感じではない方でしたね。私はこれがやりたいんだ!みたいな。
杉之原: でもパッタリと、「ビジネス・資本主義」から別の軸に行かれましたね。
上田: おそらく誰より先を行ってらっしゃる方だと思うので。
杉之原: 私自身、ビジネスの世界にいますし、暮らし方にもあまりポリシーがないんですけれど、どちらかというと男性的な価値観でまだこちらの世界なのだと思います。でも、一度やってみて、分かって、あまりに合わなかったり別のやりたいことがあったりしたら、断つという選択をするのは、あまり苦じゃないかもしれないですね。
上田: そうなんですよね。そういう意味では、男性は転職するかもしれないのですが、ずっとビジネス社会で働いていそうな安心感がある。
杉之原: なるほど、それはあるかもしれません。
江戸: それはあるかもしれませんよね。
傾向として、確率の問題になりますけれど、確率は高いっていうのはそうですよね。
杉之原: 確率が高いから、さっきのポスト思考や、ある種 男性側のバイアスもすごく沢山ありそうですね。
江戸: ありそうですね。
上田: 悪い言い方をすると「男性の生き甲斐を達成するために皆で作った人生ゲームを、男性皆で楽しんでいる」というような。資本主義社会が全部そういうものかもしれませんね。
杉之原: それは私自身感じますね。
ですけれど「そこに多様性を!」と言っていく時代ですよね。
一通りそのゲームは味わいつくされて、今は「次の価値を生み出すフェーズ」だと思います。今日明日で、男女比率を変えるのは、なかなか難しいと思いますし、私も無理にやりたいわけではなくて、いま主流にある「男性のためのゲーム」をこれから続けても誰も幸せにならないと思いますので、そのためにも5年10年で見た時の皆さんの「弟子リスト」に興味があります。
江戸: なるほど。
杉之原: そして、弟子リストに山根さんや蔵田さんがずっと居続けるということにはすごく賛成です。
上田: 全然違う経験をしても居続けるというのは、それはそれで面白いですね。
インタビューを終えて
ガイアックス、アディッシュにおいて、「経営層のジェンダーギャップ」というテーマについて、ようやく議題がテーブルに乗ったところです。まだ、経営者自身の確たる信念や社内での議論が成熟していない段階で、インタビューにありのままに応じてくださったガイアックス上田さん、そして江戸に感謝しています。
ここまで読んでくださった皆さまにおいては、感じられた違和感があったことと思います。ダイバーシティ&インクルージョンという観点においては、ひとつの側面でしかありませんが、例えば「経営層のジェンダーギャップ」を扱ったときに、経営者、そして私自身を含むひとりひとりが、どのようにそれぞれの考えを持ってアップデートし、それらの時差を紡ぎながら、会社全体そして事業活動へと目線を持っていけるのか、実験を重ねていきたいと思います。 ー 杉之原 明子
ライター: 遠藤桂視子
編集: 杉之原明子
これから
この対談から7ヶ月が経過した3月30日のガイアックス株主総会では、ガイアックス初の女性社外取締役として、正能茉優(しょうのう まゆ)さんが選任されました。
引き続き、「ジェンダーダイバーシティ」シリーズでは、「経営層におけるジェンダーギャップ」についても、多様化に向けたアクションがなされていくのか、この動きを追いかけていく予定です!